インベーダーのようなあいつ
ゲートキーパーズ異聞


配役
浮矢瞬              藤田浩之
生沢ルリ子           神岸あかり
近衛かおる            姫川琴音
防人操               セリオ
朝霧麗子・商店街アナウンス     松原葵
ジュン              保科智子
フェイ             来栖川綾香
フランシーヌ          宮内レミイ
北条雪乃             雛山理緒
司令             セバスチャン
落合恵子              マルチ
メガネ              長岡志保

幽霊少女            来栖川芹香
影山零士             佐藤雅史

男子生徒        浮矢瞬(特別出演)
掃除のおじさん 掃除のおじさん(特別出演)


 俺は、浮矢瞬。ふとしたことから地球人とインベーダーの戦いに巻き込まれて、特殊遊撃隊ゲートキーパーズの隊長になっちまった。
 だが、毎日任務があるわけじゃない。普段は盾神高校2年生として、けっこう楽しい学生生活を送ってる。なんといったって、役目で女の子に囲まれてるってのは気分がいいもんだ。
 今朝は遅刻しないで済みそうだ。ずいぶん秋も深くなってきて、早朝に吐く息は白い。
「瞬ちゃ〜ん」
 うおっ。来た。今日も来た。生沢ルリ子だ。ゲートキーパーズに入ったときから、幼なじみみたいな口を利く同級生だ。ルリ子は俺に並ぶと、ぜいぜいと息をついた。
「瞬ちゃん、歩くの速いよ〜」
「勝手に追っかけてきたんだろ。それと、高校2年生をつかまえて、ちゃんづけはやめろって言ったろ」
「じゃあ、花の女子高生をつかまえて、ルリッペってのはいいわけ?」
「このっ。反抗的だぞっ。ルリッペのくせにっ」
「きゃっ」
 ルリ子は上からの攻撃を防ぐしぐさをした。
「へっへっへー。今日も仲がいいでやんすねえ。あやかりたいあやかりたい」
「あら、メガネくん、おはよう」
 メガネと呼ばれた男子生徒は、ぺこりと頭を下げた。男にしては甲高い声である。じつは女性だと言う設定案もあったらしいが。
「先輩、最新のメガネニュースでやすよ。1年のかおるちゃんが、また瓦を割ったでやす。今度は3枚重ねだったでやす」
 ルリ子が、不思議そうに言った。
「恐がられるから割らないようにしてるって言ってたのに」
「友達からせがまれたんだそうでやす。素手でたいしたもんでやすねえ」
「そうやってだんだん仲良くなってくれたら、助かるんだがなあ」
「へへっ。先輩も今のうちにフラグ立てとかないと、ライバルが増えるんじゃないでやすか」
「メガネ!」俺は狼狽してメガネを叱った。ほら言わんこっちゃない。ルリ子の目がうるうるしてきた。こっちを見ている。
「瞬ちゃん…」
 その真ん丸い後藤圭二タッチのタレ目で見つめるのは止めてくれ。ああああっ。
「何やってるかっ。遅れるよっ」活発な声が背後から響く。フェイだ。ルリ子は慌てて涙を拭き、俺達は歩き始めた。


「ハァイ、リーダー」休み時間にぼんやり廊下を歩いていた俺は、後ろからいきなり抱き付かれた。こんな日本人ばなれしたことをするのはフランシーヌに違いない。
「リーダー、考え事していましたか」フランシーヌは屈託なく言った。
「私、またニッポンのアイサツ覚えました。オヒカエナスッテ!」
「そういうアイサツは、女性はあまりしないな。男性でもみんながするわけじゃないぞ」
「ニッポンの女性のアイサツ、やっぱり爆発ですか」
「なんで爆発なんだよ」
「だって、立てば炸薬、座ればドカンじゃないのデスカ」
「それは、立てば芍薬…」
 そのときである。校内のブザーが響き渡り、ゲートキーパーズに呼集をかける秘密放送が流れた。
「えーと、職員室から、特別委員さんたちにお知らせしますぅ。あのー、まことに申し訳ないんですけど、指定の場所に集まって頂けないでしょうかぁ。すみませぇん」

(ムービー)

 がらっと教室の戸を開ける瞬。たったったっと教壇に近づき、箱に詰まった色とりどりのチョークをいくつか押し下げる。ふと顔を上げると教室には何人か女子生徒が残っている。凍り付く瞬。天井からがらがらとスクリーンが降りてくる。スクリーンが再びがらがらと上がると瞬がいない。拍手する女子生徒たち。

 家庭科室でエプロン姿をして料理の下ごしらえをしているルリ子。素早く周囲を見回すと、コンロのつまみを「Emergency」の目盛りまで回す。がたんと実習用テーブルの下に穴が空いて階段が現れる。そこへ走り込むルリ子。1秒後、「いっけなーい」と叫びながらルリ子がまた出てきて、コンロの元栓を締めて、また階段を降りていく。

 人気のないのを確かめて、体育倉庫に駆け込むかおる。すぐに顔を真っ赤にして大慌てで出て行く。閉めた扉がまた開いて、男女の生徒が顔を出す。男子生徒が怒鳴る。「馬に蹴られて死んじまえぇ」

 図書室ですやすや寝ている操。警報が鳴っても起きようとしない。モニターでそれを眺めていた司令、黒と黄の縞模様に塗られたカバーをはずし、中の大きなスイッチを押す。机ごと床に吸い込まれる操。

 焼却炉にどたどたと走って来るかおる。竹ぼうきを持った掃除のおじさんが、「おでかけですか?」と声をかけるのを突き飛ばし、焼却炉の扉を開けるかおる。ぶわっと煙が出る。「だからここは使いたくないんだぁ」思わず叫ぶかおるだが、気を取り直して飛び込む。

 保健室でお茶を飲んでいる麗子。お茶を置くと、座高計に座り、腰掛け部の脇の秘密スイッチを押す。床に吸い込まれるように座高計ごと降りていく麗子。

ナレーション「イージス極東支部秘密基地は、私立盾神高校の地下深く建設された、無敵の科学要塞である。隊員たちが高校のどこにいても、できるだけ早く作戦室に集合できるよう、注意深く設計されているのである」

(ムービー終わり)

「良くおいでなされた」司令は一同を見渡した。「落合君、状況を説明さっしゃい」
「あ、はい、あの、えーと、えーと、皆さん、去年起こった、三百円事件はご存知ですよね」
「知らねえ」俺は意地悪く言った。「明治維新の頃じゃあるまいし、三百円で事件になるかよ」
「あっ、そうでした。すみません」落合さんは言い直した。電子スクリーンが開いて、白バイ警官のモンタージュ写真を映し出す。
「この、三万円事件に、インベーダーが関わっていることが、最近明らかになったのです」
「落合君、三億円だ、三億円」司令が訂正する。
「事件にインベーダーが関わっているとして」操が抑揚をつけずに言った。
「犯人の目星はついているのですか」
「三億円犯人が、奥多摩地区にアジトを持っていることが、このほど明らかになった」司令が質問を許さないという語調で言った。「ゲートキーパーズは直ちに出動、これを撃滅してもらいたい」
「犯人を撃滅しても、かまへんのですか」ジュンが質問した。海兵隊で鍛え上げられた、関西系アメリカ人少女である。
「インベーダーに情は無用」司令は決然と言った。「トヨタスポーツ800を使って急行して欲しい。ゲートキーパーズ」司令の眼鏡が曇った。「出ませい!」

(ムービー)

 エレベータで発進位置に向かうトヨタスポーツ800。黄色いナトリウムランプが明滅する。
 校庭では銅像の二宮金次郎が頭を上げて上空を見回す。落合さんの声。「羽田コントロール、府中コントロール、クリアランス出ました。飛行機に見られる心配はありません」
 駅前商店街では、カンカンという音が鳴り、各店の店頭にある赤いランプが明滅を始める。人が散り、電柱が一斉に外側に倒れる。アナウンスが入る。
「お買い物中の皆様、ゲートキーパー部隊、ご出動でございます。まことに恐れ入りますが、歩道の白い線の外側に…」

 トヨタスポーツ800の運転席に、英語のインストラクションが聞こえてくる。「Pull the throttle」「自動車にスロットルなんかねえよ」「All right, let's go」「ごまかすなっつーの」「まあまあ」ルリ子がなだめる。
 爆音を上げて、トヨタスポーツ800が発進して行く。

(ムービー終わり)

「瞬ちゃん、飛ばし過ぎじゃないの」助手席のルリ子が心配そうである。「そうだな」「罰金食ろうたら、あんたが払いや」ジュンがにべもなく言う。「やっぱり、地球防衛免許証にも、免停とかあるのかな」「ゲートキーパーズ、消されたライセンス〜」ルリ子が笑えないルリ子ギャグを飛ばす。
「あのう、もう着きましたか」落合さんから通信が入る。「奥多摩には入ったけど、どこに行ったらいいの」「えーと、その、あの、すみません」「謝らなくてもいいから教えてよ」「えっと、えっと、あっ、そうだ。A地点に向かってください」「それじゃわかんないっての」
「あっ、瞬ちゃん、見て」ルリ子が声を上げた。空から帽子が降って来る。ブラックマンだ。俺はブレーキを踏んだ。
 車を降りると、ブラックマンはすでに適当な間隔に散らばっている。「よくここがわかったね」声がするので見上げると、崖の上に影山零士が、さわやかな笑顔を見せている。
「君なら見つける力があると思っていたよ。きっとこれなら、第2段階の覚醒も大丈夫だね」影山零士が優しく俺を励ます。その影山の袖をくいくいと引く者がいる。あれは幽霊少女だ!
「えっ、敵を励ましてどうするって?」
「…(こくこく)」
「そうか。瞬たちを生きて帰しちゃいけないんだったね」
「…(こくこく)」
「じゃ、そういうことなんで、済まないけど、死んでね」
 さわやかな笑顔を残して、幽霊少女と影山は、消えた。
 俺はジュンとルリッペを見た。「行くぞ、戦闘開始だ」
 ジュンは、その言葉を待っていた。
「いてもうたるっ」
 ジュンはM16初期型を激しく振って、ブラックマンの掃討にかかった。
 あっという間に最後のブラックマンが消え去った。
「ぜいっ、ぜいっ」激しく息をつくジュン。
 インベーダーは何を見られたくなかったのだろう? その答えは間もなく出た。背後の民家の納屋から、白バイに乗った警官がゆっくりと出てきたからである。
 ゆっくりと?
 なにかおかしい。ほとんど制止したオートバイが、倒れない。
 警官が、にやりと笑った。そしてそのまま、ふにゃりと人としての中身が抜け出たようにしおれて、皮だけが残った。ころりと白いヘルメットが転がった。
 俺は叫んだ。「気をつけろ! こいつ、警官はくぐつで、バイクが本体だぞ」
バイクが、むっくりと立ち上がった。
「ゲート、オープン!」3人が、ほとんど同時に叫んだ。

 白バイ怪人との戦いで、語るべきことはほとんどない。武器といえば発煙筒くらいのもので、弱い奴だった。ジュンはもう少し撃ちたそうにしていた。
 さて、俺達が民家に踏み込んで、何を探したか、皆さんも想像がつくだろう。そう、ジュラルミンのトランクと、その中身だ。
 ピッピッ。通信機のコールサインが鳴った。スイッチを入れたとたん、司令の大声が響いた。
「かああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ。におうぞにおうぞ邪念のにおいが」
「司令、白バイ怪人は撃滅しました」
「モニターで見ておった。三億円なら、いくら探しても見つからんよ」
「えっ、それじゃ、まさか」
「インベーダーが三億円を狙っているという情報があってな。本物の三億円は、イージスの手で先方に届いておったのだよ」
「そんなあ」
「早く帰ってくるネ」司令と通信を代わったフェイが言った。「ラーメンのびるよ」
 俺達はトヨタスポーツ800に飛び乗った。日本の科学の粋を集めたマシンで、俺達は青梅街道を疾走した。ラーメンを食いに。
「ねえ瞬ちゃん。誰か忘れてるような気がしない?」ルリ子が言った。


 ここは、北海道某地域の山中。すでに初雪をかぶった野山は、人の容喙を許さぬ厳しさを示している。
「だれかぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 木々は雪の重みに耐える準備をすっかり終えて沈黙し、それを破るのは時折現れるユキウサギのみである。
「みつけてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 そこに立つ、見るからに寒そうな和服姿の少女。2本の長い前髪はだらりと垂れ下がっている。
「さむいよ〜くらいよ〜こわいよ〜」
 北条雪乃は、泣きべそをかいていた。肩の黄色い小動物が、同意するように、悲しげに一声鳴いた。
「ピカァ」


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