第11話 「翼」
「やあ、香ちゃん、東京へ行くんだって」尼崎はいつもの通り、陽気に香に声
をかけた。香は振り向くと、にっこり笑って頭を下げた。その脇には、ペンギ
ンオーがいつもの通りむっつりとした顔で正面を−つまり香たちのはるか上を−
見据えている。格納庫は閑散としていて、工員の数もいつもより少ない。
「ペンキャリーの2号機、まだ取り掛かれないんですか」「うむ、政府がうん
と言わんのだよ」「ペンちゃんが、言うこと聞かなかったからですか」
尼崎は困った顔で押し黙ってしまった。
ペンギンオーは香の制止を聞かずに、武者くぐつにペンギンシャウトを放っ
た(第10話参照)。もし同じことが市街地で、建物や群集に向かって起きたら、
取り返しのつかないことになる。政府はペンギンオーをスリーアイから動かさ
ないよう命じてきており、移動手段であるペンキャリー2号機の着工をあらゆる
手段で遅らせていた。
「ああ、今度はコンサートかね」尼崎は努めて陽気に尋ねた。「あの、吹き替
えをやってみないかって言われてて」香はカバンをごそごそ探って、企画書を
取り出した。「『着て! 着て! ともよちゃん』っていう番組なんです」「ほ
う、どんな話だね」「台本もらってないのでよくわからないんですけど、悪玉
3人組とカードで戦うんですって」「カードで戦う? 手裏剣みたいなものかね」
「多分違うと思うんですけど」
「あら香ちゃん、こんなところにいたの。皆さんが待ちくたびれてたよ」はる
かが声をかけた。「はーい」香は尼崎にもう一度ぺこりと頭を下げた。
「ほんとに、ついていかなくていいの?」「大丈夫です。ペンちゃんを、よろ
しくお願いします」香はにこりと笑った。「ずっと、一緒にいてもらうわけに
もいかないし」
実のところ、不安もあった。しかし暗鬼党がひとりでも残っている限り不安
は続くのだし、はるかの人生を自分のために犠牲にするのも間違っている。
何一つ確信は持てないが、予知能力より思いやり、と言ったはるかの母親の言
葉を、香は当のはるかに当てはめて考えていた。
「ほんとに、いつ来ても東京って道狭いわねえ」タコさんがぼやいた。とうの
昔に高速道路を下りて、目的のスタジオを目指しているところである。
「タコさん」香の声は、どこか眠そうである。「この道、さっき通った」
「そんなことないわよ、ねえイカさん」呼ばれたイカさんからの返事はない。
「イカさん」見ると、イカさんはすっかり眠りこけている。
「まったく、気楽…」タコさんは言い終わらないうちにハンドルに覆い被さる
ように突っ伏した。意識を失う直前、急ブレーキを踏んで車を止めたのはなぜ
だったか、タコさんは後になっても思い出せなかった。
3人を乗せた乗用車のリアウインドウに、いつの間にか蝉が止まっていた。
その蝉は、低い男の声で単調に鳴いていた。
くららくららの草枕 ゆららゆららの夢枕
くららくららの草枕 ゆららゆららの夢枕
やがて車の中の3人が眠ってしまうと、蝉の姿をしたものは、ぱっと飛び
去っていった。
この時代、テレビ電話は普通の製品として普及している。ごく普通の方法で
スリーアイにかかってきたその電話は、しかし普通の電話ではなかった。
「来栖香は我等暗鬼党が預かっている。返して欲しくば我等と戦って勝つこと
だ。我等は富士の野にあり。我等に必殺の覚悟あり」若い男の声である。少名
のものであろう。画面に示されているのは、戦略自衛隊富士演習場の光景であっ
た。丈高い夏草の中に、十字架らしいものにくくりつけられた女性の姿が見え
る。
そのメッセージを見るスタッフの眼は、一様に厳しい。置き去りにされたタ
コさんとイカさんの顔もある。暗鬼党は香だけをさらって行ったのである。
「急がねばなりませんな。生かしておいてはくれると思うが、食料や水を与え
てくれるかどうか」歌川が言った。「戦略自衛隊に応援を求めてはいかがで
しょう」原田が言った。香がいなくては、ペンギンオーも動かせまい。
専用エレベータで田沼長官が上がってきた。その顔に表れた強い緊張に、
声をかけようとした原田は息を飲んで沈黙した。
長官席の田沼長官は、座ろうともせず、震える声で言った。
「戦略自衛隊は、動かない」
「えーっ」「ひどい」「なんでー」善音、琴音、菊音がそれぞれ思いを口にし
た。
「政府は、市街地の防衛を最優先とし、ペンギンオーおよびその協力者と暗
鬼党の私闘には介入しない旨、先ほど持ち回り閣議で決定した」「私闘です
と」尼崎が珍しく太い声で怒りを示したので、戦闘司令室の皆が驚いた。
「たった一度じゃない。たった一度言うことを聞かなかったからって、ペン
ちゃんを信じないって言うの」原田がうつむいた。
「俺たちで行くしかないか」決然と言う大童を見る田沼長官の表情は、すべ
ての感情を隠していた。「頼む。大童とはるかで、行ってやってくれ」
「奈美ちゃんを乗せてくれないか、ペンギンオーに頼んでみましょう」原田
が言った。「頼めた義理では、ないようですけど」
戦略自衛隊が動かない代わり、暗鬼党が陣取った富士演習場の周りに、奇
妙な一団が集まり始めた。ある者は日の丸の鉢巻をきりりと結び、ある者は
ドイツ語を銀糸で刺繍した黒い鉢巻をしている。別の一団は揃いのTシャツ
を着ている。
「かおりちゃんを愛する、すべての者に告げる。我等の敵はただひとぉつ」
頭だった男が、旅行用のスーツケースに上って、声を張り上げていた。あた
りはすでに薄暗くなろうとしている。「我等、生まれた日は違ってもぉぉ」
「コミケに行く日はみなおなぁじ」別の男がその脇で腕を振り上げ、大きく
唱えた。「うおー」野太い声が唱和した。
「明朝、夜明けを期して演習場に突入、スリーアイを支援するっ」スーツ
ケースの上の男が絶叫した。「うおー」野太い声が再び唱和した。
「また、あたしはお留守番なのね」奈美の口調はなじるようではなく、かと
いって楽しそうでもない。
「奈美さんの戦場は、ここだ」大童は言った。真夜中の月は、少し欠け始め
た姿を地球に向けている。格納庫の中のペンギンオーは、無言で前方をにら
んでいる。「この勝負、ペンギンオーが出てこなければ、難しいだろう」
「難しいって」奈美の声は小さくなった。「地球のことなんか、ペンギンオー
には他人事なんだよ。奴らにペンギンオーを渡して済ませるんだったら、ペ
ンギンオーのことは俺たちには他人事だ。だが俺たちは、そうしなかった」
大童の口調はあくまで静かだった。
「そのことをペンギンオーがどう考えているか、だな。そのあたりを、うま
く」「あたしにはできないわよ」奈美が泣き出した。その奈美を、大童は抱
きしめた。「悪かった、うまくなくていい」大童は微笑した。
「ちぇすとおおぉぉぉ」格納庫の裏手から、男の絶叫が聞こえた。大童と奈
美は格納庫の端に駆け寄って、様子をうかがった。
声の主は、タコさんとイカさんだった。「ちぇぇぇすとおおぉぉぉ」
掛け声と共に繰り出されているのは、どうやら竹槍らしい。師匠もなく、型
も何もあったものではないが、ぴりぴりした真剣さが伝わってきた。大童と
奈美は顔を見合わせて、無言で笑いあった。
「あたし、やってみる。でも約束して、大童さん」奈美は言った。「この戦
いが終わったら、もう離さないって」「ああ」「大童さん」奈美の目には、
もう涙はなかった。「ちょっとでも、寝ておいたほうがいいと思う」「ああ」
大童は苦笑してうなずいた。
「ちぇぇぇぇぇすとおおぉぉぉ」また声が響いた。
「奈美ちゃん」はるかは優しく奈美を呼んだ。夜は明けようとしている。ス
リーアイ友の会の面々も全国から集結し、決戦は刻々と近づいている。奈美
は憔悴した顔をはるかに向けた。やはりペンギンオーは動こうとしないのだ。
はるかはそれを察して、ペンギンオーのことは何も言わなかった。
「奈美ちゃん、お願いがあるの」はるかの口調は、優しかった。
「これから、あたしたち富士に行ってくるけど、もしも」はるかは口ごもっ
た。「このスリーアイが戦場になって、みんな…避難するときに、父様がこ
こに残るなんて言ったらさ。そのときは」はるかは小さな声を絞り出した。
「あたしの代わりに、父様をぶん殴って」
奈美は、はるかをじっと見て、小さく言った。「思いっきり?」
はるかは、くすりと笑った。「うん。気絶してもいいから、引っ張って逃
げて」奈美も微笑んだ。「大丈夫。そういうことは、歌川さんがきっと得意
だから」
ふたりは、どちらからともなく抱き合った。相手のために泣くべきではな
い、とどちらも思っていたが、相手の肩が濡れてゆくのを互いにどうするこ
とも出来なかった。
そしてどちらも、相手を気遣って、大童のことを口に出せなかった。
夜の闇が払われるころ、すべての準備は整った。ファンの集団、友の会の
超能力者たち、そして大童とはるか。斜め十文字の白だすきを背負ったタコ
さんとイカさんの姿もある。その向こうには、十字架が小さく見えている。
その後ろには、固形燃料で湯を沸かしている、救護班の老人たちの姿があっ
た。
原田が攻撃指示を出すべきところだが、戦闘司令室の原田は声を詰まらせ、
肩を小さく震わせるばかりであった。三つ子オペレータが心配そうに見つめ
るが、どうすることもできない。
「回線を、こちらへ回してくれないか」田沼長官のその言葉は、満ち潮が間
近で立てる波音のように、自然なものとして受け取られた。
「スリーアイの田沼新三郎です」田沼長官は静かに切り出した。
「香君は、何の準備もなしにペンギンオーのただひとりの操縦者として認め
られました。それから香君と我々がやってきたことは、降りかかった火の粉
を払うだけであったかもしれません。その意味では、私闘と呼ぶべきかもし
れません。
しかし、大きな力を与えられたものには、責任もまた課せられます。香君
は、その力を自分のためだけに使おうとはしませんでした。だからといって、
その力を投げ出すこともありませんでした。香君は、自分の生活の中に新た
な力を受け入れ、いつも我々と共にありました。
いま、その香君が、危機にあります。我々にはペンギンオーがありません。
それでも我々は、自分たちの取るべき道を決めなければなりません。
私は、皆さんに命令をする値打ちのある人間とは思いません。ですが、も
し皆さんが、香君の共通の友人として、私の子供達と一緒に戦ってくれると
いうなら」原田が目を見張って顔を上げ、田沼長官を見た。「これに過ぎる
幸せはありません」
静寂と沈黙が戻ってきた。号令が下されないまま、大童が無言で歩き出し
た。ひとり、またひとりとそれに続き、ついには全員がゆっくりと歩き始め
た。
「方々、よくぞ来られた」響き渡る声の主は、どうやら晴明らしい。「いさ
さか馳走して、宴(うたげ)の菜(さい)を整え参らせたゆえ、召されよ。
今生の名残にのう」晴明は声を張り上げた。「日光くぐつ、月光(がっこう)
くぐつ、出ませい」霧の粒が集まるように空間がぼやけ、束帯の武士を象
(かたど)るくぐつ獣が、中国風の直刀を構え、並んで出現した。
それを待っていたかのように、高空から黒いものが大挙して降りてきた。
見れば頭は烏、背中に黒々とした羽を持つ烏天狗たちである。その中心となっ
て地上に降り立ったのは、小角。「やらせまいぞ」その声は短いが闘気に満
ちている。
「行くぞ」声を放ったのは大童。思い思いの吶喊の声が、人の群れから上がっ
た。
「始まったころね」奈美はぼんやりと言った。格納庫の扉は開かれ、朝日が
ペンギンオーと奈美を照らし出している。
「あたし、ペンちゃんに乗ってさあ。英雄になりたかったの。みんなからほ
められたかったの。だから、乗せてくれなかったんだよね」ばさばさとドロー
ンバードが近づいて、胸のモニタを開いた。「見たくない」奈美は横を向い
た。「きっと、頑張ってるんだから」ドローンバードが首をかしげて、胸を
閉じた。
「夢って、ひとりだけで頑張ってかなえるものじゃないんだね。きっと」奈
美は格納庫の外を見ていた。時折、爆発音のようなものが遠くから聞こえて
くる。
「愛して、愛されて、その中で夢が形を取るんだよね」奈美はペンギンオー
を見上げた。「ペンちゃんがどうしてここに来たのか、結局わからなかった
けど、あたしたち、一生懸命やったわ。ペンちゃんのことをわかろうって」
奈美はペンギンオーにもたれかかった。「だから、あたしはペンちゃんを信
じてあげる。香ちゃんの代わりに。今日戦ってくれない理由は聞かない。い
ろいろあるのよね。きっと」
遠雷のような音が、また聞こえた。奈美はそれを、安らかなまでの無表情
で聞いていた。
ぶーん、という音がうなった。奈美が見上げると、ペンギンオーの胸が開
いている。
「乗せてくれるの」奈美の声は細かった。前日からの徹夜と心痛で、心が硬
くなっているのが、自分でもわかった。そんな奈美を、トラクタービームが
柔らかく包んだ。
「ペンギンオー、動き出しました」菊音の声は、戦闘司令室に黄色く響いた。
「何だと」「間に合うのか」田沼長官と歌川主任が身を乗り出した。「見な
さい、あのペンギンオーの飾り羽を」格納庫をのしのしと出てくるペンギン
オーの眉のような飾り羽が、見たことのない色に染まっているのを、尼崎が
目ざとく見つけた。
引き込まれるように深い、スカイブルー。
ペンギンオーの背中が開き、中から左右一対の畳んだ傘のようなものが現
れた。ばさり、ばさりと開いたそれは、薄い翼らしい。翼の基部に、左右一
対の硬貨のような丸い突起がある。それが思わせぶりに明滅を始める。
「飛ぶの?!」原田が声を詰まらせた。ばさり、ばさりと試すように翼を動
かしたペンギンオーは、「くえええぇぇぇ」と高い声をあげると、ぺたん
ぺたんと助走を始めた。やがて一対の突起が輝きを増し、ペンギンオーはふ
わりと空に浮かんだ。
「行ってくれるの。ほんとに、戦ってくれるの」最初は硬かった奈美の言葉
に、にじみ出るように感情が加わってきていた。
コクピットに新たなスクリーンが開いた。マンボオーが浮上して、いや、
未知のテクノロジーで空中に浮いている様子が映し出されている。大きなエ
レベータが開き、そこから次々と見たこともない大型のメカが送り出されて
いる。鷲に似たもの。アヒルに似たもの。そして、地球上のどんな鳥にも似
ていないもの。共通しているのは、飛んでいることだけ。いや、飛べないも
のもいるらしい。マンボオーの端からずり落ちるように、強いて言えばワニ
に似たメカが飛び降りるのが見えた。
「来てくれるの。この子たちも来てくれるのね」奈美は言った。ペンギンオー
の前方を映していたスクリーンに目をやった奈美は、その質問が間の抜けた
ものであったと知った。
マンボオー自身が、富士演習場上空に瞬間移動していたのだ。
「あの、ペンちゃん、お願いが」心がほぐれてくると、気にかかることがあ
る。しかしペンギンオーは、奈美に最後まで、望みを言わせなかった。マン
ボオーを映していたスクリーンが閉じ、代わって開いたスクリーンには、
髪を振り乱した大童の姿が映っている。奈美は目を閉じ、頭を垂れた。もう
流し尽くしたと思っていた涙が、またこぼれてきていた。
はるかは一心不乱に長歌の詠唱を続けていた。3枚の短冊が風車のように、
くるくると空を舞っている。
異異(ことごと)の 挙(こぞ)る人々
事立(ことだ)つる 心ばえ善し
時知らぬ 山の山彦
田子の浦 海の海彦
言祝(ことほ)ぎて 挙(こぞ)る人々 言幸(ことさき)くあれ
事立つる=特別なことをする 心ばえ=(ある人への)想い、心遣い
時知らぬ山=富士山。在原業平の歌(時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の
子まだらに雪の降るらむ・新古今和歌集)から。 言祝ぐ=言葉で祝う
言幸くあれ=言霊の加護のもと幸福であれ
詠唱の下で、スリーアイ側の面々には信じられない幸運が続いていた。烏
天狗たちの攻撃は不思議に逸れ、素人がむやみに振り回す棒は不思議に急所
に当たった。日光くぐつ、月光くぐつが人々を踏み潰そうとするが、すんで
のところで逃れたり、怪我をしても近くに味方がいて、すぐ救護班のところ
へ運ばれたりしていた。
時間稼ぎに過ぎないと、はるか自身がわかっていた。しかしくぐつ獣を前
にして人間が戦うとしたら、それ以上のことができるであろうか。
しかしその幸運も終わるときがきた。大童が草むらに隠れたくぼみに足を
取られたのである。起き上がろうとする大童の鼻先に、巴の太刀が突きつけ
られた。「兄様」思わず詠唱が止んだ刹那、気合を込めて小角が放った護符
は、空を舞う短冊を切り裂き、散らした。息を飲むはるかを、小角の錫杖が
追い詰める。他の仲間は、本来の力を取り戻した烏天狗やくぐつ獣に追い散
らされ、威圧されて、助けに入ることが出来ない。
スクリーンを見つめる奈美は声もなく、ただ震えていた。
第12話「くぐつ」
「奈美さん」飛来するペンギンオーを視界の隅に捉えた大童の目は、一瞬喜び
に輝いた。しかし目の前の太刀先に視線が戻ると、忘れていた絶望が心のうち
に蘇り、それが顔色に現れるのを、どうすることもできなかった。
巴をにらみつけ、最後となるであろう言葉を捜す大童に、先に声をかけたの
は、巴であった。
「女を、残してきたな」その口調は冷たく鋭い。「それで情けをかけたつもり
か。残される者は死ぬより切ないとなぜわからぬ」やにわに太刀が大童の額に
伸びた。「兄様」はるかがかすれる叫びを上げた。
思わず目を閉じた大童には、血が額を伝うのが感じられた。
大童は目を開けた。血も流れているし太刀先はまだ目前にあるが、額に浅い
傷を残して、太刀は引かれている。「女が来るのであろう」哀しげな巴の声が
した。「行ってやれ。そなたらはまだ間に合う」あっけに取られる大童に向
かって、巴は声を励ました。「早う行け。ぐわぁぁっ」冷静そのものだった
巴の顔が歪んだ。きりきりと太刀が持ち上げられてゆく。
操り人の操り糸は 霧の紛れに切れもせで
綺麗なる人きりきりきりと 過てりとて綾(あや)と巻く
低く唱えながら近づいて来るのは、道誉である。
「いけませぬなあ巴殿、因縁とは申せ」「おのれ」巴が道誉に憎悪の目を向
ける。「ささ、とどめを、巴殿」道誉の目は邪な喜びを隠そうともしていな
い。太刀がじり、じりと上がる。
「えいっ」太刀が振り下ろされる。「おおっ」居合わせた者達が一斉にどよ
めきを上げる。
太刀の刃を握り締め、短く持ち替えた巴は、それを我が喉に突き刺し、前
のめりに倒れていた。
「どうしてじゃ。なぜわしをそれほどまでに」震える声で叫んだのは道誉で
ある。自失する道誉を見て、最初に動いたのは大童だった。巴の腰から脇差
を抜くと、念を込めてひょうと投げる。「ああああああ」胸に脇差を受けた
道誉は、うめき声を上げてそのまま仰向けに倒れ、ぐずぐずと形を崩し、土
に帰っていった。
「おい、おいしっかりしろ」大童は戸惑いながら、巴を助け起こした。
「次郎様、巴は…まがいものゆえ、お供かないませぬ。極楽浄土で、本物の
巴様と」息の漏れる喉で、うわごとのようにつぶやき続けた巴は、ついに動
かなくなり、そして土に戻った。
から、と小さな部品が大童の手から落ちた。脇に無数の穴の空いたそれは、
コンピュータチップのようであった。
巴から目を移した大童と小角は、かなりの距離を隔ててにらみ合っていた。
小角は油断なく、錫杖をはるかに擬している。
大童の背後に、マンボオーを降りてきたメカたちが見えていた。デモン
ストレーションのように、羽の生えたコアラのようなメカが火を吹いて見
せている。
小角は、視線をはるかに移した。「あなたたちの負けよ」はるかは震え
る声で言った。「ふ、ふ」はるかは笑おうとしたが、出来なかった。
「亡き友に免じ、わしも女をひとりだけ、助けるとしよう」小角が突きつ
けていた錫杖を引いたので、はるかは目を見張って絶句した。
「我等の住まいへの道、開いて進ぜる。我等を倒して、通られよ」さっと
腕を回し、大烏に変じた小角は、烏天狗たちをひき連れて空へ舞い上がっ
て行った。日光くぐつと月光くぐつは、連れ立つように戦いの場から歩み
去っていく。
地響きを立ててペンギンオーが降り立った。大童はよろけながら立ち上
がり、香のもとへ駆けつける号令をかけようとしたが、その必要はないの
に気がついた。烏天狗たちがいなくなったのを見て、みんな走っている。
その中で、ひときわ目立つ男がいた。竹槍を抱えたままのイカさんである。
意味のわからない大声を上げ、やがては竹槍も投げ捨てて、ただ走る。そ
の迫力に、自然に誰もが道を譲った。
香がくくりつけられている十字架の足元に、真っ先に飛び込んで来たイ
カさんは、そのままうつぶせに倒れこんだ。何かが引っかかったような激
しい呼吸音で、しばらく声も出ない。「イカさん、どうしたの」なんだか
間抜けな声のかけ方だと自分でも思いながら、香は言った。「なんにも、
出来んかった。居っただけや」「だからいつも言ってるじゃない、運動し
なきゃって。それよりさあ」「なんや」「下ろしてくれないの」
イカさんは顔を上げた。微苦笑する香の顔がそこにあった。誰かがナイ
フを渡してくれたので、イカさんはそれで香の縛めを次々に切っていった。
大きく息をついてよろける香を、イカさんは慌てて支える。その汗だく
の頬に、柔らかい感触が伝わった。「ありがと」
「おおおー」重低音の合唱がすべての方向から聞こえた。
「えっ、えっ、えっ」香は首をレーダーアンテナのようにかくかくと120度
ほど回転させ、自分たちが数百人の男と数人の女に囲まれていることに気づ
いた。視線をさえぎるものとてなく、亀が首を引っ込めるように、せめてイ
カさんの陰に隠れてみる香である。
やがてまばらに、そして大きな拍手が沸いた。どの顔も汚れて、疲れきっ
て、笑っていた。香は照れながら、ぺこりぺこりと周囲に頭を下げた。奈美
が飛び込むように駆け寄って、香と抱き合ったとき、ちょうど奈美の携帯端
末が鳴った。
「原田です。みんなを代表して、おめでとうをいいます。ごめんなさいね香
ちゃん」「ううん、みんなありがとう」「それでね香ちゃん、香ちゃんも疲
れていることだし、今日はいったん引き上げ…」「だめですっ」香は叫ぶよ
うに言った。「あ、ごめんなさい。でも、マンボウさんの応援も来てるし、
今日で終わりにしたいんです。こんなこと」「でも、香ちゃん」原田は心配
げである。「大丈夫です。徹夜が怖くて歌手なんか出来ません。今日も元気
にナチュラルハイです」日光くぐつと月光くぐつは、少し離れたところで、
香たちをじっと見ている。それを視界の隅に収めながら、香は言った。
「じゃあ、行くわよ、ペ」香は絶句して、ペンギンオーを見上げた。「誰が
乗ってきたの」「あたし」奈美がためらいがちに言った。「やったあ。とう
とうやったんだね奈美ちゃん。うふははは」うれしそうにはしゃぐ香に、奈
美は言葉を詰まらせた。「ありがとう」
「くええぇ」ペンギンオーが空に向かって羽を振った。ばさばさと下りてき
たのは、白い羽に黄色いくちばしの、アヒルに似た鳥である。羽毛に覆われ
た胸が開いて、昇降口らしいものが見えた。「くわぁぁ」鳥は鳴いて首をか
しげ、奈美を興味深げに見つめた。「お友達?こっちに乗れって言ってるみ
たいね。じゃ香ちゃん、ペンちゃんは返すわ」「わー、何これ」香は初めて
見るペンギンオーの翼に驚いた。「あたしに聞かないでよ」「奈美さん」
大童が何か言おうとする機先を、奈美が制した。「今回はお留守番よ、大
童さん」奈美は明るく言った。「必ず帰ってくるから。一度言ってみたかっ
たんだ」右手を伸ばし、大童の額の乾いた血糊に触れる。その一瞬だけ、奈
美の表情が曇った。「特大の絆創膏でも、貼ってもらって」奈美はまた明る
く笑った。大童はふふんと笑って、何も言わなかった。
日光くぐつと月光くぐつの間には、渦を巻くような光のゆがみが出来てい
た。おそらくそこが、暗鬼党の本拠地へと続く通路なのに違いない。
「参るぞ」日光くぐつの肩に陣取った小角が叫んだ。2体のくぐつ獣はずんず
んと地響きを立てて突進してくる。
ペンギンオーはぺたぺたと横に動き、アヒルメカと距離を取った。アヒル
メカはうずくまったように動こうとしない。他のメカたちはそれをさらに遠
巻きにして、近づこうとしない。「どうしたの。こわがってるの、その子」
香が気遣わしげに呼びかける。「違うの。あたしにもよくわからないけど、
何かを一生懸命用意してるの」奈美が応える。
ばさり。アヒルメカが羽根を打ち振った。羽の周りの空気が、高温で揺ら
めいている。未知の駆動装置の助けを借りてふうわりと空に舞い上がった
アヒルメカは、白い羽毛状の断熱材とともに安全形態を捨て、戦闘形態へと
移行した。
赤熱した翼を持つ、フェニックスメカに。
「くわああぁ」高く鳴いたフェニックスメカは、まっしぐらに月光くぐつに
向かってゆく。月光くぐつが直刀を振り下ろそうとする刹那、フェニックス
メカは羽を白く光らせ、爆炎を口から吹いた。月光くぐつの動きが鈍ったと
ころをかすめ去るフェニックスメカ。月光くぐつのわき腹には、翼の先端が
かすめたのか、黒い筋が残っている。
「すごーい。さっきから思ってたんだけどさあ」香がペンギンオーに話し掛
けた。「ペンちゃんって、マンボウさんの一番強いロボットじゃないんだよ
ね」弱い肯定。「あっ傷ついた」香はくすりと笑った。「でも、ペンちゃん
で、よかった」
「反転急上昇っ」奈美の張り切った声が聞こえてくる。「フェニックス・ムー
ンサルト」「くわああぁ」宙返りしたフェニックスメカは、それを防いで振り
かぶられた直刀の先をかわして、燃え上がる翼で月光くぐつの腹を切り裂い
た。「すごーい」香がはしゃいだ。「今考えたのその名前」「そうよ」「よー
し。奈美ちゃん。あれを使うわ」「あれって何よあれって」「古いアニメで
見たの。一度やってみたかったんだ。ペンちゃん、飛んで。ペンちゃん?」
ペンギンオーは、右の羽を日光くぐつに突き出していた。おそらく「2分で
片をつける」とかそういう類のことを言おうとしていたのだろうが、羽には指
がないので、何分だと言おうとしていたのか、誰にもわからない。
「ペンちゃん、飛ぶの」「くえええぇ」
言われるままにペンギンオーはばさりと羽を揺らすと、まっすぐ飛び上が
る。「イナズマ…ペンギン…」ペンギンオーの扁平な足裏が、日光くぐつに
向けられた。「キーック!」
仰向けに倒れる日光くぐつ。しかしもともと安定の悪いフォルムのペンギン
オーもうまく着地できず倒れてしまう。「くええええっ」あわてて這いずって
後退するペンギンオー。
日光くぐつはもう動かない。よろめきながら立ち上がったのは、小角。「も
う逃げないのね」体を起こしたペンギンオーの中で、香は静かに言った。「無
駄だからな」香も小角も、視界の隅に浮かんでいるマンボオーのことを意識し
ていた。そして、武者くぐつに起こったことを。
「はるかちゃんを助けてくれて、ありがと」「そのほうがいい筋書きだと思っ
ただけだ」「筋書き?」「まだわからんのか。まあいい」小角は息を大きく吐
き出した。「少名様に聞け」力なく言うと、小角は前のめりに倒れた。
「金時よ。俺はお前を笑わん。だからお前も、俺を笑うな」その最期の声は小
さく、誰の耳にも届かなかった。
くぐつ獣たちは塵と化して吹き払われ、後には空間の歪みが残った。
「行こう、奈美ちゃん」「ええ」「気をつけて」原田が割り込んだ。どうも電
波による通信は中の空間に届きそうにない。香が淡々と言った。「行って来
ます」
ペンギンオー、フェニックスメカがまず空間のゆがみに飛び込み、マンボ
オーのメカたちがぞろぞろと続いた。
「オーラがくすんでるよ、兄様」はるかが大童の背後から声をかけた。「自分
でもわかるでしょ。少し横になったほうがいいと思う」「ああ」「大丈夫よ」
はるかはさもおかしそうに笑った。「それにね。あたしたちにできることは、
もうないの」
「わかってる」極度の疲労で半ば意識を失いながら、大童は答えた。
広いような狭いような、感覚を迷わされる空間だった。しかし不思議なほ
ど、こちらが手前であちらが奥、という感覚だけはあって、道に迷うことは
なかった。
「食ろうてくれる。食ろうてくれるぞペンギンオー」晴明の震える声がした。
飛翔していたペンギンオーが周囲を警戒して旋回を始める。やがて、さわさわ
という擦過音がコクピットに聞こえてきた。「何これ」「気をつけて香ちゃ
ん」どうやら小型のメカが飛ぶともなく這うともなく近づいてきて、ペンギ
ンオーに取り付き始めているらしい。
「くえええぇ」ペンギンオーは人を呼ぶような声を発した。
背中に2列のこぶを並べた、緑色のワニのようなメカが、空中を泳ぐように
体をくねらせて進み出た。こぶが次々に黄色く変わり、細めの1本の支柱に支
えられて迫(せ)り上がると、こぶのカバーが外れて中から白い竹とんぼのよ
うなものが無数に飛び出してくる。それらは自力でふわふわと空間を漂い、ペ
ンギンオーの周囲で晴明の操るメカと戦い始める。「おのれ、おのれぇ」晴
明の口調がだんだんうめきに変わっていく。時々火花が散る以外に形勢は計り
知れないが、おそらくタンポポワニメカが優勢なのであろう。「ぐわああぁ
ぁぁ」魂消(たまげ)る声が響き、やがて静かになった。綿毛メカがペンギ
ンオーにまとわりついて損傷を直しているいるので香も気がついたのだが、
もともと綿毛メカは工作ロボットらしい。「晴明って、くぐつ獣を作るための
ナノメカの集まりだったのかしら」「そうね」すべてを人任せにした戦闘の後
味の悪さを紛らわせるように、香たちは話し合った。
前方にぼうっと光る空間がある。そこがおそらく、少名のいる場所。
「来たな」少名の声は、意外に物静かだった。それに対峙する香たちも、いき
なり飛び掛りはしなかった。「攻撃しないの」香は冷たく言った。「それよ
り、聞いて欲しい話がある」少名は言った。香は無言で応じたので、少名は話
し始めた。
「我々の主人は、マンボオーの属する一族の船団と戦い、宇宙船をひどく傷つ
けた。やっとの思いで地球に不時着したときには、すでに主人はこの世のもの
ではなかった。
もともと独立任務につく船ではなかったから、後に残されたのはわずかな数
の人工知能チップと、ごく限られた工作設備だけだった。もちろん宇宙船など
は作ることが出来ない。
現地の通信内容を傍受しているうち、我々と同じころ、敵方の損傷船もまた
地球に落下していたことに我々は気づいた。もしマンボオーかその搭載メカの
工作能力を使えれば、我々は復命できるかもしれない。我々は地球人に似せた
擬似人格を、数少ないAIチップに与えて、戦闘集団を作り攻撃を開始した」
「なぜマンボウさんたちと戦っていたの」香は尋ねた。
「マンボオーの属する一族は、我々の主人の母星を滅ぼしたからだ」
「そんなこと」奈美は息を飲んだが、香は驚くそぶりを見せなかった。武者く
ぐつの最期の一言が心に引っかかっていたせいか、それほどショックを受けて
いない自分に、香は気づいていた。
「我々にとって誤算だったのは、マンボオーの機能がほとんど修復されていた
ことだった。そのような状態でなぜ地球にとどまっていたのか、今の私はある
推定を持っているが、それはマンボオーに直接聞くがいい」「勝ち目がないっ
て、天狗さんも知っていたの」「おそらく、奴なりの考えで、同じ結論に達し
ていたのだろうな」少名は香の問いに答えた。
「私たちは、あなたたちの敵と決まったわけではないのよ」「香ちゃん」奈美
が慌てたが、香は取り合わなかった。「言い分があるなら、もっとたくさんの
人に聞いてもらったらどうなの」
「強い子だ」少名は言った。「だが話し合いのテーブルについて、わが主人の
思いを勝手に曲げるわけにはいかん」「そんなのひとりよがりじゃない」奈美
が問い詰めた。「正義とはそういうものだ。愛もそういうものかもしれんな。
君たちの言葉で言えば、我々は、ふふ」少名は自嘲の笑いを発した。「私は私
なりに、主人を愛しているのだ」
数秒の沈黙が過ぎ去った。「あなたとあなたの主人とやらのことは、私たち
の記憶と歴史に残るでしょう。それがあなたの望みなの?」香が言った。「あ
りがとうと言っても、受け入れてもらえそうにないが、一言だけ言わせても
らう」少名の口調は、優しいと言ってもよかった。「メカとして、もし主人を
選べるなら、おまえの下で働きたかった」張り詰めたものが少名の言葉に戻っ
てきた。「この空間は間もなく崩壊することになる。行くがいい」
少名は、くるりと背を向けると、闇の向こうに消えていった。
最後のメカが空間から飛び出すのを待っていたように、空気の震えを残して
歪んだ空間は小さくなり、ついには閉じた。香と奈美がメカを降りると、残っ
ていた人々が歓声を上げた。「香君、いま大至急ビールの手配をしているか
ら、現地で待機していてもらいたい。とうとうやったな」田沼長官から祝いの
通信が届いた。「ありがとうございます。でもその前に、今日はどうしても」
香は皆に聞こえるように叫んだ。「1曲歌わせてください」
====================================================================
やさしくてつよくなる
強くなるのは難しくない 心を固めてしまえばいい
お友達を守るために 知らない人を叩けばいい
感じることを止めてしまって 冷たい考えを鍛えて
世の中は願ったほどに 単純だと信じればいい
Take the Command of Yourself 守ってる守られている
元気良くお日さまに敬礼 今日もしっかり迷いますって
優しくなるのは難しくない 心を陽炎(かげろう)にすればいい
人を傷付けたくないと 口をつぐんでしまえばいい
世の中が良くなる理由など 自分では作り出さないで
柔らかい見えない殻に こもったままで生きればいい
Take the Command of Yourself 人のせいにしたくはない
好きな色の旗をひるがえし ほんとの勇気試しに行こう
============================================================
<ヒストリカル・ノート>
巴御前(生没年不詳):源義仲(木曽次郎義仲)の乳人の娘で、義仲の妻となる。
武具を付け合戦に参加することで知られ、義仲と実兄たちの最後の戦いにも加
わったが、義仲が戦死直前に説得し、故郷の信濃へ落ち延びさせた。
のち鎌倉へ送られて斬られるところ、和田義盛が助命を乞うて妻とし、息子
が生まれた。その和田義盛も北条氏と争って敗死し、息子も行方不明となり
(房州朝比奈氏はその子孫を名乗る)、巴御前は仏門に入ったと伝えられる。
佐々木高氏(1306-1373):法名は道誉。南北朝期に(主に)足利尊氏に従って
軍事・行政に活躍した。連歌など文化にも造詣が深く、ばさら大名の異称もあ
る。なお佐々木源氏の嫡流が屋敷の位置から六角氏と呼ばれるのに対し、道誉
の家系は京極氏を名乗った。
役小角(えんのおづの、生没年不詳):役行者(えんのぎょうじゃ)とも呼ばれ
る。7世紀から8世紀にかけての伝説的な山岳修行者。
少彦名命:少名毘古那とも記す。出雲で大国主命と協力し国作りに当たった。
大和政権にまつろわぬ勢力との戦いを神話的に描いた、いわゆる出雲神話の中
心人物。
第13話「掌に乗った地球」
富士演習場は大宴会たけなわであった。短いようで長い戦いが終わったこと
を互いに喜び合って、感情の渦が草原を満たしていた。
だから、当然この場にいるはずの、当然こうした場を一番喜ぶはずの人間
が、いつの間にかいなくなっていることに気づいていたのは、ごく一部の者だ
けだった。
香は、ペンギンオーのコクピットにもぐりこんでいた。
「マンボウさん、マンボウさん」当てもなく呼びかける香。マンボオーが自分
たちの言葉を解さないはずはない。少名とのやりとりで、その漠然と抱いてい
た思いは確信に変わった。
すでにペンギンオーを残し、マンボオーとメカたちはそそくさと日本上空か
ら立ち去っている。そのマンボオーに、香は呼びかけた。
「お疲れ様でしたね。私がマンボオーのメインコンピュータです」落ち着いた
女性の声が響いた。「私からもお願いがありますけど、あなたにはたくさん尋
ねたいことがあるのでしょうね」「はい」「この通信は地球にはない技術で発
信されていますが、ペンギンオーから通信を転送して、スリーアイの戦闘司令
室にも届くようにしておきます」マンボオーは続けた。
「私は、あなたがたの表現で言えば、無人艦です。私たちを支配する種族は、
乗り組んでいません。種族の名前は人間の発音器官では正しく表せませんか
ら、仮にマンボニアンと呼んでおきましょう。
マンボニアンは、人間の感覚で近い概念を探すと、遊牧民族です。エネル
ギー変換技術と超光速航法に長けているマンボニアンは、宇宙船の集団で広い
範囲を移動しながら、宇宙のあちこちにある資源や有機物のプラントを巡って
暮らしています。
あるとき、私たちを快く思わない集団が、船団に攻撃をかけてきました。私
は大きな損傷を受けて、地球に落下しました」
「その集団って、暗鬼党と名乗った人たちですね」香は言った。
「そうです。彼等が言ったことは事実です。マンボニアンが他の民族と接触す
ることはしばしば起こりますが、その機会を利用して、辺境の王になろうとす
る者たちが、後を絶たないのです。彼等の一族は最初のうちそうした犯罪者と
争い、ついには我々の船団に攻撃を仕掛けて、全面戦争の末に母星を失いま
した」
「つまり、あなたがたが滅ぼしたのですな」歌川が陰気に口を挟んだ。
「その通りです」マンボオーの口調に変化はなかった。「話を戻しましょう。
私の損傷は激しいものでしたが、時間をかければ、修理に必要な物質は手に入
る見込みでした」
「海水を、漉(こ)しておられたのですか」歌川が言った。「ご明察です。
海底のマンガン塊なども少々頂きました」マンボオーが答えた。
地球の海は、あらゆる元素を微量ながら含んでいる。人類の科学水準をはる
かに超えるエネルギー源と、十分に長い時間があれば、原理的には必要な元素
を漉し取ることが可能であろう。
「マンボオーは、軍艦なのですか」田沼長官が尋ねた。
「おもちゃ屋です。すべてのメカは」マンボオーの口調がいたずらっぽくなっ
た。「当店の在庫です。マンボニアンの成人は全長40メートル前後で、様々な
光線を体から発射することが出来ます。話を戻しましょう。
船団に帰れるとすると、私はこの星の生物について、報告をまとめる必要が
ありました。そこであなたがたがペンギンオーと呼んでいるメカをあなた方に
託して、あなた方がペンギンオーにどう接するかを観察することにしたのです」
「その観察のために」香が厳しい口調で割って入った。「地球の人たちを戦い
に巻き込まなきゃいけなかったんですか」
田沼長官も、歌川も、原田も、息を飲んだ。
「そのことについては、ペンギンオーからたびたび意見具申がありました」マ
ンボオーは心持ち話す速度を落としたように感じられた。「ですが、新しい生
物との接触があった場合、それを対等の交際相手として認めるかどうか、いつ
も問題になるのです。マンボニアンにも物質的な欲望があります。あなたがた
の一切の権利を認めずに、すべての資源をマンボニアンの管理下に置いたほう
が、経済的な利益が上がるのは当然です」
「我々を、奴隷にすると」歌川が言った。
「愛玩用の用途を除けば、人間をマンボニアンが使役することの利益はほとん
どないでしょう。もし皆さんが対等のパートナーにふさわしくないとなれば、
マンボニアンは皆さんを、皆さんがローランドゴリラやオランウータンを扱っ
ているように扱うでしょう」
その言葉の意味を、通信を受け取れる人間全てが考えた。田沼長官が真っ先
に口を開いた。「経済的に重要な地域から追い払い、サンプルとしてわずかな
個体の生存だけを保障して、あとは飢えるに任せるということですか」
「おそらく、そのようなことになるでしょう。私がこのようなことをお伝えす
るのは、そのような事態に対抗する準備が間に合わない、と確信してのことで
す」マンボオーは言った。
「危機に臨んで、人の心底が見えるということは、あります。それを記録した
かったと言うのですね。我々が、友人として信頼できるかどうかを」歌川が
言った。香の耳に、「最後に問題になるのは、力じゃない」というカツ子の言
葉がよみがえった。
「そこでお願いがあります。香さんに、私たちと共にマンボニアンの船団に
行って、直接マンボニアンたちに会って欲しいのです」
「えっ? ええっ? ええええええっ?」香はあわてた。
「あの、あたし、人類の代表としては、その、あの」「つまり、こういうこ
とですかな」尼崎が言った。「マンボニアンが、我々のことをどう思うかが
大事であると。そのためには外交官や政治家に話をさせるよりも、見る者の
感情に訴えることが何よりだと。そのために、ペンギンオーの戦いの物語を
記録したのですな」
「その通りです」マンボオーは言った。「そして香さんは、その物語のヒロ
インです」
田沼長官が、沈黙を破った。「香君は、いつごろ帰って来られるのですか」
「保証は出来かねます」マンボオーは言った。「船団の現在位置が不明です。
船団での方針が決まるまで、どれだけかかるかも未知数です。早くて半年、
5年以内に地球に戻って頂ける可能性は、約85%です」再び沈黙が襲ってきた。
「考えさせて…くれますか」香は力なく言った。
結局、香はマンボオーと同行することを承諾した。
出発までの期間は、わずか1週間と決められた。いかにも政治的な干渉を誘
いそうな案件だけに、そのほうが良いであろうと田沼長官もマンボオーも考え
たのである。
臨時発着場として、富士演習場が使われることになった。ペンギンオーは
そのまま富士演習場にとどまり、警察によって演習場の周囲は厳重に固めら
れた。
そして香は、スリーアイの構内で時間を過ごしていた。取材や政治的接触
の求めが激しく、外に出ることが出来なかったのである。
「いよいよ今日ねえ」タコさんはイカさんに声をかけた。
「そやな」イカさんは無表情に答えた。
「あたしのことなら心配しないで、やりたいようにやんなさい。密航とか」
イカさんはちらりとタコさんを見たが、すぐ目をそらした。
香は、ペンギンオーもペンキャリーもいない、がらんとした格納庫の前に座
り込んでいた。イカさんは、その隣に座った。
「いよいよか」長い沈黙の後で、やっとイカさんは、短い言葉を搾り出した。
「びっくりしちゃった」香は言った。「こんなことになっちゃって」
「香ちゃんが責任感じること、ないんやで」香はこくんとうなずいた。
「いいことをする気持ちって、誰でも持ってると思うの。でも、何かができる
機会って言うのは、みんなが持ってるわけじゃなくて」香は気恥ずかしげに続
けた。「たまたま、あたしがそういう立場になったって言うのは、そりゃあ困
るけど。でもいろんな人から、思いを託されたような気がするの。あの敵方の
人達だって、いい命令を受けたら、いいことしてたと思う。あの首領の人は、
そうしたがってた」少名の顔が、香の脳裏をよぎった。
「そう言われると、止められんな」イカさんの笑顔は、どこか無理があった。
「待ってるとか、離れてても同じ時間を生きてるとか、そういうことは言って
くれないの」「言うて欲しいか」「そりゃあ、いちおう、女の子だもん」
「男と女のことだけで、生きていくわけにはいかん。香ちゃんが男で、わしが
女やったら、誰も尋ねもせんやろな。異性のことで大事なもんを捨てるなんて
考えへんわな」香は、見たこともない人を見るような目で、イカさんの言葉を
聞いていた。そして、静かな優しい目に戻った。
「歌手のあたしと、人類の代表のあたしは、あっちへ行きます。でも、女の子
のあたしは」いきなり香が抱きついてきたので、イカさんは息が止まった。
「ここにいても、いいかな」「香ちゃん」「おばちゃんになっても、おばあ
ちゃんになっても、必ず帰ってくるから。待っててくれる」「浮気してもえ
えとか、そういうことは、言うてくれへんのやな」「うん。私、わがままだ
から」「…わかった」香は顔を上げた。「私も頑張るから。先に死んじゃ、
やだからね」
ばたばたと鳥の羽ばたく音が間近に聞こえて、ふたりはびくりとした。追
いかけるように、香の携帯端末の着信音がオーバーラップした。
「発進時刻には2時間もあるだろう」専用エレベータを降りるなり、田沼長官
は確認した。マンボオーが富士演習場に現れ、ペンギンオーがそれに向かって
歩き出している様子が、メインスクリーンに映し出されている。
「突然の予定変更を、お詫びします」マンボオーから通信が入った。
「私達は人間ではありませんが、人間らしく振舞うことは出来ます」マンボ
オーの言葉は、相変わらず落ち着いている。悪く言えば、抑揚がない。
「メカたちの判断も聞きましたが、人間であれば香さんを大事な人達から引き
離したりしない、と私達は推定しました」「わあ」菊音がはしゃいだ声を上げ
た。「人間になったつもりで、人間のために話してみることにします」
「相変わらず、様子をうかがっておられたのですな」歌川が言った。「大変申
し訳ないことです」「いや、とんでもありません。若い娘をひとり犠牲にして
生き残るというのは人類の恥ではないかと、ずっと思っておったところです」
歌川は快活に言った。「私からも、礼を言います。科学者としてではなく、人
の父として」田沼長官が言い添えた。
「どっ、どうしたんですか」香が戦闘司令室に走りこんできた。
「お別れです、香さん。人間のことは私達でよく話しておきます。すっかりご
迷惑をかけてしまって、ごめんなさいね」
「くえええぇぇぇ〜」スクリーンの中のペンギンオーが、羽を振った。
「ちょっと、ペンちゃん、お別れなの、もう会えないの」香が叫んだ。
背中の翼を広げたペンギンオーは、それには答えずに、ゆっくりと上昇を始
めた。白い小鳥の群れが渦を巻くように、青く薄い翼のペンギンオーを先導す
る。
「あんなにドローンを出しておったのか。デバガメマンボウめ」思わず歌川が
口走って皆の視線を浴び、咳払いをした。
やがてマンボオーの下部が開き、ペンギンオーはそれに吸い込まれていった。
そしてマンボオーは垂直に上昇を始め、見る見るうちに雲の向こうへ隠れて
しまった。
「ペンちゃん」香はつぶやいた。ペンギンオーと別れることの心の準備はまっ
たくなかったから、すぐには悲しみの心すら湧いて来なかった。
空には、もう何もいなかった。
2205年が暮れ、2206年がやってきた。その2206年も押し詰まり、人々が前年
に集中した怪異現象を忘れかけていたころ、世界中の天文台で、同じ現象が観
測されていた。北天の地軸方向に近い星の多くが、非常に頻繁に、短時間だけ
光度を落とすのである。最初は天文学者や天文ファンの間でだけ話題になって
いたこの現象も、やがては各種のメディアに取り上げられるようになった。
「地球の北半球を浅い皿のように覆う形で、異星人の大艦隊が展開していると
考えることも、いちおう可能です。もちろん我々は、異星人の平均的な艦の大
きさについては、何の情報も持っているわけではありませんが」田沼長官は自
室でテレビ電話に出ていた。
「もしそうだとすると、どういうことになるのかね」首相は心配顔で言った。
「地球は、彼等の掌につかまれているのも同じです」田沼長官は言った。
打撃艦1-05-42-1524809号は指示された位置につき、特殊フィルターを装着
した艦首レーザービーム砲を地球に向けていた。僚艦もそれぞれの位置につ
き、調整に入っているはずである。漆黒の宇宙に時折ちかちか光が見えるの
は、ビームの試射だろうか。
「なあ」主砲管制員が、同僚に話し掛けた。「あの星の連中も、指揮官適性係
数とか、振替残高とか、共同繁殖者のこととかで悩んでるのかな」
「知らんな」同僚はにべもなかった。「これほど大掛かりな作戦に値する連中
とは思わんがな。恒星間弾道弾1発で済むことだ」
「コヒーレンスチェックのため、ビームを試射して下さい」電子音声が響いて、
管制員達は仕事に戻った。0.01秒の照射で、はるか0.1光秒(約3万km)先に浮
遊しているセンサは音もなく溶解するが、その直前に必要なデータを管制室に
送る。
「コヒーレンスおよびコンバージェンス、許容範囲内。作戦開始予定時刻から
2デクサの間について、主砲コントロールをメインコンピュータに委譲して下
さい」「承認する」物憂げに主席管制員が告げた。
そして、数千万のビームは一斉に発射された。
「お疲れ様でーす」三つ子オペレータたちが戦闘司令室を出て行った。天空に
怪しい兆候があるとはいえ、今日はクリスマスイブである。大童と奈美はとう
の昔に連れ立って出かけていた。いま戦闘司令室に残っているのは、はるか、
原田主任、田沼長官の3人である。
「兄様たちもいまひとつ進展がないみたいねー。まったく小学生以下なんだ
から」「今日ははるかさんは外出しないの。折角のイブなのに」「あたしは仕
事に生きる女ですから」はるかの携帯端末が鳴った。
「はい。田沼です。えっ。えーっ。こんばんは。えっ。今日ですかっ。空いて
ますっ。すかっと空いてます。はい。じゃ7時に。うわあ。どうしよう。
はいっ。じゃ、あとで。あ」最後の「あ」は通話を切った後、自分が今いると
ころに気がついて発した声である。
「あ、あのー」はるかは小さな声になった。田沼長官が、無言で手を振った。
「行ってきます」これ以上ないくらい小さな声を残して、はるかを乗せたエレ
ベータのドアが閉じると、田沼長官は言った。「誰が小学生以下だって?」原
田は吹き出した。
「結構忙しくしているはずなんだが、いつの間に」「そういうのは、関係あり
ませんよ」「語られざる物語というやつか」田沼長官は苦笑した。
今度は田沼長官の端末が鳴った。長官公用のものではなく、田沼新三郎とし
ての端末である。「大童かな。今夜は帰らないなんて言い出したら、男親とし
てはどうしたらよいものか」原田が肩をすくめるのを尻目に、田沼はごそごそ
と端末を取り出した。滅多に使わないので、ポケットの奥のほうに入っている。
「田沼です。…カツ子」田沼長官の声が変わった。
「ああ、子供達は、もう行ってしまったよ。イブだからな。今どこにいる。そ
うか」田沼は端末を下ろした。「ああ、原田君」「行ってらっしゃい、長官」
原田は微笑んだ。田沼長官は端末を取り上げた。「久しぶりに、ふたりで食事
でも、どうだね。ああ、7時に」
ひとりになると、原田は胸のロケットを開いた。
「語られざる物語、か」ロケットを見ながら、原田は言った。「私、頑張って
るよね」答える者は、なかった。
どれくらい、そうしていたろうか。
外が明るくなった。そのことに気づいた原田は、窓際に駆け寄った。
「ペンちゃん、どうしてるかな」香は、空を見上げて言った。
「地球は、自然公園みたいなもんになったんとちゃうかな」イカさんは言った。
「誰も入ったらあかんで、とかいう」「じゃ、もうペンちゃんには会えないの
かな」「何のかんの理屈つけて、取材班とか観光客とか密猟者とか入って来よ
るもんやからな。自然公園言うのは」イカさんは笑った。「案外、すんなり会
えるかもしれん」
「そうだといいな」香は言った。「ねえ。折角のイブだからさあ」
「コップで久保田か」イカさんは混ぜ返した。
「もう」香はふくれた。「行こ」「どこへ」「だから、コップで久保田」
「ほんまに行くんかいな」「うん、空を見ながら、歩こうよ」
苦笑しながら、手を引かれるままにイカさんは歩いて行った。
空いっぱいに踊っていた"Merry Christmas" のレーザー光は消え、羽を振る
ペンギンのシルエットが、大きく現れた。
完
===============================================================
あなた
あなたの中の私は 少しはお役に立っていますか
元気のもとを作ってますか 私の中のあなたのように
ずいぶん遠くにいるけど あなたはきっと今でもあなたで
元気にあくせくしてるんでしょう 私の日々の暮らしのように
同じ時を生きていれば すべてのひとはあなたに続く
それで優しくなれるとしたら ごめんねの代わりになるかしら
<あとがき>
この作品は、執筆期間だけで2年半にわたる仮想戦記「なにわの総統一代記」
の後を受けて書いたものです。なにしろおばさんひとりを除いて登場人物はほ
とんど男性でしたし、台詞も意識的に翻訳調で、他のことがやりたくてもやれ
ないという想いを抱き続けた2年半でした。そのためこの作品は、女の子だら
けで、ストーリー上どうでもよい入浴シーンや水着シーンがあって、和歌や歌
詞がふんだんに出てくる、とにかくマイソフが金輪際書いたことのないものを
詰め込んだ作品となりました。
「なにわの総統一代記」を書き始めてから、「あー、あれがやりたい、是非や
りたい」とマイソフが地団駄を踏んだ作品が完結しました。OVA版ジャイアン
ト・ロボです。第2次大戦の話を書き継いでいると、同じような兵器による同
じような戦闘を何度も書く羽目になり、機関銃の「絹を裂くような発射音」と
いう表現を何度使ったか自問自答することになります。あのいろいろなものが
飛び交うエキスパート戦と、彫りの深い悪役達をぜひ書いてみたかったので、
この機会にやってみることにしました。
じつは、これだけでは、この作品の成り立ちを半分しか説明したことになっ
ていません。マイソフは声優・歌手の岩男潤子さんのファンクラブに入ってい
ますが、ファンクラブのサイトが2000年1月にリニューアルされて、会員専用
のディスクスペースもできるかもしれないというので、先走りして制作を決め
てしまったのがこの作品です。タイトルを決めるのに20分、基本設定に3日、
それから第1話・第2話を脱稿するのに2週間という、まったく出たとこ勝負の
作品でした。結局maisov.comの発足時期とも重なって、会員専用ディスクスペー
スは使わないことにしたのですが、この作品は当初の予定通り1クール13話ま
で書き継ぎました。
ただ、こうした経緯はある程度maisov.comには流したのですが、@Niftyには
わざと流さないことにしました。そのことによって、「ファンにしかわからな
い」作品にしないよう自戒するためです。話の端々に、岩男さんにちなんだ記
述が登場するのですが、思い当たらない方でも疎外感を持たないように最大限
配慮しました。もちろんヒロインの来栖香は、いくつかの点で岩男さんに似て
いますが、いくつかの点でたぶん似ていません。
ラスト3話は、岩男潤子さんの持ち歌である「翼になれ」「おもちゃ」「手の
ひらの宇宙」にそれぞれちなんだ(ところもある)内容になっています。
ペンギンさんとマンボウさんの話がどうしてこうシリアスになるのかね、と
執筆途中で何度も思いました。いいかげんな出発をした作品でしたが、ひとり
ひとりのキャラに存在感を与えようとして、自然にそうなってしまったのだと
思います。擬古文の使用、歌詞の挿入など、使ったことのない技術を総動員し
て、いろいろなところで限界に突き当たっている作品です。一番シリアスだっ
たキャラは私自身かもしれません。
成立の経緯からご想像いただけると思いますが、キャラのほとんど全てには
イメージ声優がいます。敢えて公開しませんので、読者の皆さん独自のキャス
ティングでお楽しみください。ひとりだけヒントを出しておくと、マンボオー
の「んぱ」という声は、ぜひ銀河万丈さんにお願いしたいところです(笑)。
ご愛読、ありがとうございました。
Back