戦闘歌姫ペンギンオー
第5話「マンボオー緊急浮上」
「タコさぁん、まだぁ」「香ちゃん、今日何回目の質問かしら」海岸道路から見る
空は、抜けるように青い。
「あの岬を越えたら見えるんじゃない」タコさんがカーナビの地図を見ながら言っ
た。「待ち遠しいなー」香が足をバタバタさせた。トレーラーは曲がりくねった海
岸道路を快調に走っていく。
トレーラーが、峠を回った。
「わぁー」「おぉー」「すっごぉーい」3人が驚嘆の不協和音を奏でた。
3000人を収容する世界最大の移動コンサートホール、ゼファーが、その威容を伊
豆半島沖に見せていた。
ゼファーは、注文主の財政的トラブルで宙に浮いた10万トンタンカーを改造した
もので、喫水が深く、船としてはかなりの横幅がある。接岸できる桟橋がほとんど
ないので、海岸とシャトルボートで往復して客を乗降させる。シャトルボートに安
全に乗降できるよう仮設防波堤まで積んで世界を回っている、珍しい船である。宿
泊施設はないが、レストランなどの娯楽施設も一通り揃っている。
ゼファーを使って行われる音楽祭に出演依頼が来て、香たちは今到着したところ
であった。出演歌手は多く、集まっている人も様々である。香たちはトレーラーを
とりあえず関係者用駐車場に入れると、海岸の空気を吸いに行った。
「よう、香ちゃん」「あれ、尼崎さん」香は手を振って近づいた。「来てくださっ
たんですか」「ああ、うん、まあ、その」尼崎ははっきりしない。「どうせ主任さ
んのお目当ては、あれ。あの船」タコさんがゼファーを指差す。「かなわんなあ。
あれは技術屋にとっては、一度は見たい船だからね」「まったくどーして最近、素
直にあたしの歌を聴いてくれないお客ばっかり」香はぼやいた。「いや、コンサー
トにも喜んで行かせてもらうよ」「ほんとですか」香はもう少しで喜んでしまうと
ころだった。「客席と舷側の溶接部分で、応力をどのように逃がしているのか興味
があって、ああ香ちゃん」「失礼しますっ」香はぷんぷんと歩いて行った。
さんさんと降り注ぐ陽光を浴びて、ピンクのビキニに身を包んだ−包んでいない
面積の方が大きいが−はるかは、傍らのテーブルからブルーハワイのグラスを取っ
て、幸せそうにすすった。
「おっ、おおっ」大童の上ずった声が聞こえる。「ああ、畜生」はるかは大童の方
を見もせずに声をかけた。「また古タイヤ?」
大童は釣りを諦めて、船首近くのはるかのところに戻ってきた。「まったく静か
な休暇だな」大童はスポーツドリンクのペットボトルをラッパ飲みした。「待命中
と言って欲しいわね」はるかは訂正した。「もう少し雰囲気のある船だともっと良
かったんだけど」
どこの港にいても怪しまれないから、という理由で、スリーアイの誇る高速追跡
艇ネレイドは、釣り船に偽装されていた。ご丁寧にも、舷側には黒々と「第三小林
丸」の文字が記されている。
「このまま、何も起こらないといいんだが」「そうねー。天気もいいし」はるかは
明るく答えると、サングラスをかけ直して横になった。
日は傾いた。
白いスーツを着たはるかは、太平洋を見渡した。「何かあるとしたら、夜よね。
香ちゃんの出番も夜でしょ」「そうだったな」大童も船首から、ゼファーのいる方
向を見はるかした。
はるかは船首に立って、二度頭を下げ、二度柏手を打ち、唱えた。
わだつみに わだつ御神に 事問わましく
密(みそ)かなる 悪しき兆しを 明かし給えと
ネレイドから同心円を描くように、細波が立った。細波の及んだ海面が、おぼろ
な青の光を放っている。はるかはさらに一礼した。
「これでしばらくは大丈夫」はるかは言った。「何かあったら兆しがあるわ。コー
ヒーでも入れましょうか」「じれったいもんだな」「釣りをしてたのは、兄様でしょ
う」はるかはいたずらっぽく笑った。ゼファーの船上の色とりどりの光点が、暗く
なりつつある海面を背景として、華やかである。
「こんばんわー」舞台に出てきた香を、大きな拍手が迎えた。ステージから見渡
すと、いつもより女の子が多い。男性歌手も出る音楽祭だから当然だが、ところ
どころに似た服を着た若い男の集団がいる。「今日は来てくれてありがとう」誰
かの親衛隊だろうか。夜の部は年長の歌手が多いのに。「今日はねー。ペンちゃ
んはお留守番です」いくつかの制服集団の反応が良い。そうかー。香は思い当たっ
た。この人たち、きっと航空ファンと艦船ファンの人たちだ。今日は両方来てる
んだー。「ペンキャリーばっかり追いかけないで、私の歌も聴いてよね」また一
部の観客だけが集中的にウケているのを確認して、香はにこやかに歌い出した。
いつか覚えてらっしゃい。
木造の小船は、太平洋にぽつりと浮かんでいた。組み合わされた木の上に、かが
り火が燃えている。
「頃合いか」悪源太が言った。「乗る者がなくば、こってい鳥も据(す)え物。叔
父御殿」「では火付け参らせん」鎮西八郎は矢の先端にくくりつけた布に、かがり
火から火を移した。それを弓につがえ、きりきりと引き絞ったとき、大きなモーター
音が響いてきた。気配を察知したネレイドが迫ってきたのである。
「遅いわ。弓矢八幡」鎮西八郎がひょうと放った火矢は、狙い過たずゼファーの船
尾部分へと突き刺さる。途端にぼうっと火が大きくなったのは、ただの火矢ではな
かったのであろう。
ネレイドが急に大きな横波をかぶった。大童が面舵を大きく切って、かろうじて
転覆を免れる。巨大な鯉がその片鱗を見せ、また海中に没する。
「後は任せたぞ、鯉くぐつ。船が燃え尽すまで、人を取り込めておけ」哄笑を残し、
悪源太と鎮西八郎は、和船を漕ぎつつおぼろに消えて行った。
香が「コメディがいちばん」を歌い終わって、お辞儀をしたとたん、非常放送が
流れてきた。ほとんど同時に、ステージでも身につけておくよう言われている携帯
端末が振動した。
ホールは騒然とした。驚く顔、慌てる顔、脅える顔。怒っている顔もあった。香
はステージから、声をかけた。「落ち着いて下さい。私、これから出動しますから」
大きな拍手が起こった。「がんばれー」声が飛ぶ。一斉に敬礼する集団がいるの
は、戦略自衛隊の連中だろうか。「ありがとうございます」またお辞儀をして、舞
台の袖に走り込むと、香はぼやいた。「歌以外のことで拍手されてもなー」
ステージ用の靴はかかとが高く歩きにくい。それを急いで履き替えただけで、香
は甲板に走り出した。これからはうっかりロングドレスも着られないわね、と思い
ながら。
夕闇の海面は甲板からではもう見通しづらくなっているが、時折鯉くぐつの体の
うねりが見え隠れする。これでは危なくてボートも下ろせない。
ペンキャリーがぴたりとゼファーの上空で静止し、そのままペンギンオーを下ろ
して来た。後ろ向きにペンギンオーが…出てこない。「くえぇぇ」声が心細げであ
る。「どうしたの、ペンちゃん。体の具合でも悪いの」「くえぇぇ」「ペンちゃん
ロボットだよねー。故障でもしたの」「くえぇぇ」「ええいっ、くええじゃわかん
ないっ」香もじれったがるが、ペンキャリーの奈美はもっとじれったがった。「機
体が流されるわよ。出るんなら早く出て」奈美はとうとう、ペンキャリーの胴体を
90度以上傾け、ペンギンオーを無理矢理押し出した。
よろけるように甲板に出てきたペンギンオーは、香と向き合うと、なにか訴える
ように鳴いた。「くええぇえぇ、くええぇえぇ」「ペンちゃん、船が燃えてるの。
あの鯉の化け物をやっつけないと、あたしピーンチ、なのよ」「くえぇ」「とにか
く乗せてくれない?」「くえぇ」やっとペンギンオーは胸のハッチを開いて、香をコ
クピットに入れた。
「さあペンちゃん、行くわよ」香が声をかけても、ペンギンオーは動かない。足が
すくんだように動かない。「ペンちゃん?」香はやっと思い当たった。「まさかペン
ちゃん、泳げないの?」「くえええええええー」ペンギンオーは泣きじゃくった。
「どうすんのよー」香は叫んだ。
「迂闊だったな」田沼長官はメインスクリーンを睨み付けてうめいた。「ペンギン
の姿をしているといっても、所詮宇宙の産物だ。地球のペンギンと同一視する理由
はないのだ」「じゃあ、どうすれば」原田の声が段々消えるように小さくなる。
「スリーアイ応答願います」「源さん」歌川科学主任が腰を浮かせた。観客の中に
は、尼崎工作主任が混じっているのだ。
尼崎は、航行用施設や娯楽施設のある船尾方向に進んで、火勢を確かめようとし
ていた。「防火扉はいちおう閉まっているが、燃料タンクへの通路が遮断されたか
どうか確認できない」「源さん、そんなところ、早く離れろ」歌川が思わず口を出
す。「ペンキャリーでなるだけ多くの人を救出しよう」「しかしそちらには3000人
以上の観客がおるのだろう」歌川の剣幕に、田沼長官も原田も口が挟めない。「何
もせんよりはましだ」「いかん、パニックになるぞ」歌川が珍しく興奮している。
「観測ブイより異常信号」善音の報告を、かろうじて原田が聞きとがめた。「静か
にして。善音ちゃん、続けて」「あ、はい。マンボオー落下地点、発熱量が急速に
増大しています。メインスクリーンに映します」
見たところ変化はない。いや、マンボウのひれに当たる部分が、細かく動いてい
る。口に当たる部分が、閉じていく。それがまた、んぱ、と開いた。
白い光がメインスクリーンから、戦闘司令室の皆の目に飛び込んできた。オペレー
タたちが悲鳴を上げる。おそるおそる目を開けた者は言い合わせたように、短い叫
び声を発した。
異星の飛行物体マンボオーは、消えていた。
「沈めぇ」大童はネレイドのレーザー砲で鯉くぐつを狙うが、ほんのときどきしか
水上に姿を見せない鯉くぐつには当たらない。「兄様」はるかが大声を上げた。
「何か来るわ。取り舵よ」大童の目にも、行く手の水面がぼうっと赤く光っている
のがわかった。いやそれにしても、赤くなった面積の大きさは、ただごとではない。
大童は舵を切りながら、成り行きを見守り続けた。水面には何事も起こらない。
「兄様、上!」はるかが指差した。
夕闇の中でも、その黒々とした巨大な影は、はっきりとその存在感を主張してい
る。瞬時にそれは、海面に落ちた。
轟音とむせ返るような潮の香りに続いて、大波がやってきた。ネレイドはその大
波をかろうじて船尾から受けて転覆を免れたが、船全体が波をかぶることは避けら
れなかった。「ひどぉい」ずぶぬれになったはるかが思わず嘆くが、すぐにはっと
する。「見て兄様、火が消えてるわ」
ゼファーの船尾近くに現れたその物体は、ゼファーに大波を浴びせて、火勢を弱
らせていた。なにか平べったくて大きなものが動いて、さらにゼファーに水を跳ね
飛ばしている。「ひれ? あの形は…」
「マンボオーだ。最初から動けたのか、それとも最近動けるようになったのか」
田沼長官が通信を入れた。「瞬間移動ができるらしい。わざと水面よりも上に出て、
波しぶきで火を消したか」
「おのれマンボオー、今一歩のところで」彼方の和船から成り行きを傍観していた
悪源太はくやしげな声を立てた。「鯉くぐつよ。マンボオーを生け捕りにするのだ」
マンボオーからペンギンオーに、短い母星語の通信が送られた。
ふふ。元気そうね。私の船内にも、いろいろ便利な仕掛けがあるのよ。なにしろ
もう5年もこの酸化水素の中にいるんだもの。あとで迎えに来てあげる。
マンボオーのひれがゆっくりと動き出した。平べったいマンボオーは、上から見
ると鯉くぐつよりひとまわりもふたまわりも大きい。すばしっこいといえば言い過
ぎだが、かなりの速度で泳ぎ回る。やがてマンボオーも鯉くぐつも、互いに有利な
態勢で体当たりをかけようとしたらしく、水中に没して見えなくなった。
「あれは何?」「くえぇ」ペンギンオーから、今まで感じたことのないうれしそうな
感情が香に伝わってきた。ちょうど迷子が母親の影を見つけたような。「そっか。
あのマンボウさんに乗って、ペンちゃん地球に来たのね」「くえぇ」「どうしちゃっ
たのかな、マンボウさん」「くぇ」ペンギンオーが体内スクリーンを自分で操作し
て、水面に香の注意を促した。「出てくるの?」
それは突然だった。マンボオーが体当たりしようとした鯉くぐつをやり過ごし、
体内タンクを急速にブローして、鯉くぐつを背中に乗せたまま浮上したのである。
鯉くぐつはすっかり海面から全身を出し、ぴちぴちと跳ねるが、海に戻れない。
「よーし。マンボウの上のコイよっ。ペンちゃーん、やっておしまいなさいっ」
「くえぇぇぇぇぇえええええいいぃっ」
ペンギンシャウトを浴びた鯉くぐつは、爆発し四散した。
不思議な空間の中を、復命に向かうふたりの足取りは重かった。
「そうか、マンボオーの機能は生きておったか」「これでは、こってい鳥を狙った
我らの立場がござらん」鎮西八郎は吐き捨てるように言ったが、悪源太はじっとう
つむいて何かを考えていた。「どうなされた、若棟梁」悪源太はにやりと笑って答
えた。「我に一策あり」「されば、それは」「叔父御殿は、武辺者であられるゆえ、
な」それきり悪源太が後を続けないので、鎮西八郎はむっとして自分も口をつぐん
でしまった。
「ごめんね。あたしが乱暴に飛び出させちゃったから」「ううん、私も急き立てた
のは同じだし」香は奈美を慰めた。
マンボオーはペンギンオーの背が立つ、水深10メートルくらいのところまでペン
ギンオーを乗せていき、どこへともなく姿を消した。奈美と香はとりあえず地元の
高校のグランドにペンキャリーとペンギンオーを置かせてもらったところである。
明日はゼファーの後片付けを手伝うことになっている。
「また、嫌われちゃったかな」奈美はペンギンオーを見上げた。「悪気はなかった
んだもん。ねっペンちゃん」「くえぇ」相づちを打ったように聞こえたのは、奈美
の身びいきであったかもしれない。
「じゃあ、今日は、ここで飲もうか」「えーっ、またぁ」「この星空を肴にしてさぁ」
伊豆の海岸には、都会では見られない小さな星々が光っている。「香ちゃん、そう
いう飲み方、ちょっとオヤジ入ってるよ」「そーぉ」香は意に介さない。「ペンちゃ
んは飲めなくて残念だねぇ」
「くえぇ」おかまいなく、と言ったように奈美には聞こえた。ひょっとしたら香は、
ペンギンオーと奈美が仲良くなれるように気を遣って、ここで飲もうと言っている
のだろうか。
「買うて来たでぇ」一升瓶とコンビニの袋を抱えて、タコさんとイカさんがやって
来て、奈美の考えは中断された。「さっ、コップ持ってコップ持って」この笑顔を
見ると、無粋なことを聞くのもはばかられた。
「はーい。たかいたかいたかーい」香は気の乗らない声を上げた。寝転がったペン
ギンオーは、羽に子供を乗せて2メートルほど持ち上げては下ろすことを繰り返して
いる。「はい押さないでー。あー頭が痛い。押さないでくださーい」順番待ちの行
列を整理しているのは、二日酔いの奈美である。
ゼファーの被害は娯楽区画と航行用区画に集中しているから、音楽祭そのものは
何とか開催できるが、アトラクションがあらかた開催不能になってしまったので、
そっちを何とかしてくれないか、と香たちは言われたのであった。
「あのっ。すいませんっ。パイロットのお姉さんっ」奈美はミリタリールックの若
い男性から声をかけられて、げっそりと応じた。「あ、はいはい。写真取るのね。
はいピースぅ」にこやかな男性とけだるげな奈美は並んで写真に収まった。ペン
キャリーの前では、男ばかりがふたり、3人と連れ立って、カメラを交換し合って
は写真を取っている。何に使うのか知らないが、真剣そのものの表情で、主脚の写
真を4方向から撮影している男性もいる。
「すいませーん。ペンギンショーはそろそろ締めさせて頂きます」タコさんの声が
聞こえて、香はほっとした。「まだの方は、午後4時からの部も行いますので、そ
ちらのショーで」「えーっ。まだやるのー。聞いてないよー」香が泣きそうな声を
上げた。
「えー、おせん。おせんにキャラメル。おせんべい、どうでーす」イカさんの単調
な売り声が、うららかな伊豆の海岸で、山風に乗って流れて行った。
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コメディがいちばん
私とあなたの掛け合いは ミュージカルだってみんなが言うの
仲良くしててもケンカしてても ふたりのロンドはお似合いだって
劇場としてはこのあたり お客としてはおともだち
シナリオとしては毎日がアドリブ シェークスピアも踊り出す
いつかあなたとラブコメ 覚悟を決めて飛び込め
トレンディーじゃなくってもいい 明るい時を分け合いたい
意地悪なことも言えるのに 言われたときにはどきりとするの
嬉しい悲しい心の動き 段々大きくなってるみたい
ずっとこっちを見ていてと もしも私が頼んだら
スポットライトがピンク色に当たって ふたり芝居になるかしら
時にはなるわシリアス 逃げて泣いても来る明日
途中に色々あってもいい みんなで笑うラストがいい
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第6話「踊る人形 踊らされる人形」
「わぁー、かわいいぃぃ」部隊の袖から見ていた香は思わず声を裏返らせた。
身長20センチのペンギンロボットが20体。それが一斉にステージに放たれた。
「くえぇ」「くえぇ」「くえぇ」それぞれ声を上げながらよちよちぺたぺたと歩
き、別のペンギンが来ると器用に迂回し、決してぶつからないしステージからも
落ちない。
それがやがてステージの前に集まって一列に並び、一斉に羽ばたいて見せる。
「第152回ロボットコントロールコンクール」女性アナウンサーの声が響く。メカ
マニアなら誰もが夢見る登竜門、ロボコンコンである。もっともファインコント
ロールを競う本来の趣旨に忠実な参加者もいれば、ユーモア賞を一直線に狙って
くる参加者もいて、ロボット仮装大会とも呼ばれている。
今日はその本選の日である。香は特別審査員として呼ばれていた。
「こんにちはー」香は元気良く挨拶した。拍手に混じって「かおりちゃーん」と
野太い声が飛んでくる。航空ファンに、どうやらゼファーの事件で艦船ファンま
で合流したらしい。ほんとにいつまで続くのかしらこんな生活、と思いながら香
はにこやかに手を振った。
細い黒のサングラスに、金糸銀糸を縫い取りした黒い皮ジャンパーを身に纏っ
た壮年の男が、楽屋で出番を待っていた。あちらこちらでモーターが回り、制御
用のキーボードをカタカタと叩く音がする。
男の目の前には、等身大の女武者の人形が据えられている。その人形に、男は
話しかけた。「存外、落ち着くものよな。ここにはあの無粋な者共はおらぬゆえ」
女武者は、ふふん、と笑った。体の顔以外の箇所は微動だにしない。
「わしと共に美を解してくれるのは、そこもとだけよ」男は人形に近寄ると、頬
からあごにかけて右手を滑らせた。「のう巴殿」男が言い終わらぬうちに、人形
が短く言った。「折角蘇った命、縮めまいぞ」
いつのまにか人形の右手が動いて、自分の脇腹に小柄(こづか)をあてがって
いることに気づき、男はゆっくりと体を離した。「おお、おお」男の顔には楽し
げな笑みさえ浮かんでいる。「義理堅いことよ」「人のせいにすることか」人形
に擬された巴は嘲った。
「巴殿のみが、我が頼りじゃて」まだにやにやと笑っている道誉である。
「一号、あれを使うぞ」「よしきた、二号」「とぉー」全高30センチ足らずの
その2体のロボットは、内部に仕込まれた小型ロケットで9メートル近くジャンプ
すると、空中で身を丸めて前転した。「稲妻ダブルキーック」それぞれの右足に
バラスト(重り)が仕込んであるらしく、頭ではなく足が下になって、角度のき
つい放物線を描いてロボットが落ちる。落ちた先には別のロボットがいる。
下にいたロボットが、落下するロボットの姿をCCDカメラで捉えつつ、タイミン
グ良く身を反らせて、落ちてくる2体のロボットの右足を腹で受け止める。そのま
ま下にいたロボットは、重心の移動を補うように1歩、2歩、3歩と下がり、舞台の
上にしつらえられた高さ1メートルの断崖に後ずさっていく。断崖のふちにぴたり
2センチのところで、後部赤外線センサによって断崖の所在を検知したロボットは、
体外の音声制御ユニットに信号を送って音声を再生させる。「ドクロ帝国」
ロボットは体を危なっかしく揺すりつつ両手を斜め上に広げて、音もなくウォーム
ギアを動かし、バラストを腰から肩に向かって移動させ、最終的な重心の移動に入
る。「ばんっ、ずわぁい」叫ぶのにタイミングを合わせて、ロボットは最後の一歩
を踏み外して断崖から落ちる。ぼん、と崖下に仕込まれた煙が上がる。
「おおっ、すごい」ずっと無口だった隣の審査員が腰を浮かしてうめいたので、香
は尋ねた。「どこがすごいんですか」「いま落ちるときに、体をひねりましたよ。
左右にも重心もコントロールしてるんです」香は首を振った。この人たち、見てる
ところが全然違う。
「あっ、わたしちょっと会場の外を見てくるからね」はるかは大童に言い置くと
席を立った。大童は途端にそわそわして、今すぐに世界中の天候を知りたいよう
な所在無い顔をした。隣に奈美が座っている。ペンギンオーは会場裏の大駐車場
に展示されていて、最初から会場にいるのでペンキャリーが待機する必要がない。
「香ちゃんって、人気あるんですね。誰からも好かれて」奈美が小さな声で言っ
た。審査員たちが紹介を終えて最前列の席に就くところである。
「もっと楽に生きたらいいんじゃないの。流されて、さ」大童はホールの天井に
とても興味があるようなしぐさをした。「それぞれ、居場所があるんだよ。そこ
に誰かがいないと、みんな困るような」
「香ちゃんも、そんなこと言ってくれたんです」奈美はどうやら、ホールの床に
大変興味があるらしかった。
「はずんでないわねー」ホールの後部出口近くで、腕組みしながらふたりの様子
をじっとうかがっていたはるかは、思わず嘆いた。「小学生以下よねー」
「すごーいすごーいすごーい」叫ぶ香に、両隣の審査員が苦笑を見せまいと反対
を向いた。さっきから出るメカ出るメカ、すべてにはしゃいでいる香である。
自走文楽人形が「心中天網島」のひとくさりを演じて引き下がった。細かな
人形の動きに高い技術点がついて、得点が表示されると大きな拍手が沸いた。
そのときである。香の携帯端末が鳴った。「香君、聞こえるか。くぐつ獣が東
京湾に現れた。まっすぐそちらに向かっている」田沼長官は急を告げた。
ひとつ。またひとつ。ばりばりと音を立ててビルの壁が崩れていく。「ふはは
は。暴れよ。暴れよ河童くぐつ」口を尖らせた細身の河童が腕を振り回すたび、
肩に乗った鎮西八郎は愉快そうに笑う。
爆音と共に、戦略自衛隊のF-300戦闘機が3機編隊をとって現われ、誘導爆弾を
次々に投下して行く。その直撃弾を篭手で軽く払いのけた鎮西八郎、呼ばわって
いわく。「それだけか。そうかそれだけか。遠からんものは弓鳴りを聞け。近く
ば我が益荒男(ますらお)振り、その目に映じて語り種とせよ」鎮西八郎は強弓
を引きに引き絞り、戦闘機目掛けて矢を継ぎに継ぐ。その矢の一本は、チタン合
金の主翼を易々と刺し貫いて、制御を失わしめる。
緊迫した通信が飛び交い、白い落下傘が開いた。
「ごさんなれ、こってい鳥。鎮西八郎ここにあり」勝ち誇った鎮西八郎は弓をぶ
うんと空鳴りさせて叫んだ。
「大変」香は立ち上がった。ホールの裏手にいるペンギンオーと合流するため、
ステージの裏手から近道しようとする。「がんばれー」気づいたファンが声をか
ける。ちらと振り向いて手を上げ、そのまま香は走る。
美しい等身大のロボットが出番を待っている。その前を抜ければ、通用口から
すぐ駐車場に出られる。香は息を切らせて、どたどたと走る。
ロボットの目が、光る。音もなく抜き放たれる、小刀。前だけを見て走る香。
「推参」短く鋭い声が響く。「きゃあああっ」
白い肌に突き刺さったものが、受動的な光を鈍く放っている。
「あわ、あわわ、あわわわわ」香の言葉に、力がない。
美しい武者人形、巴の突き出した小刀は、廊下の壁に突き刺さっている。その
手元を狂わせた小柄を、自らの右手の甲から、巴は事も無げに引き抜いた。
「木を隠すには森の中、とはよく言ったものだ」大童は巴に向かってゆっくりと
歩く。「はるかが邪気を感じ取れなかったわけだ。人形とはな」
巴は無言で笑い、髪飾りに手をやるとついと抜く。その細長いかんざしがいき
なりぐいと巨大化して、ひとふりの長刀となる。「香ちゃん、逃げろ」大童は鋭
く叫んだ。
香は走った。左右対称な舞台の構造から、反対に走っても別の通用口があるは
ずだ。
控え室からぬっと顔を出してきたのは、黒いジャンバー、黒縁メガネの中年男。
こんなときになんで笑ってるんだろう、と香は一瞬思ったが、「すみません」と
一声叫んで脇を摺り抜けようとした。
「おおっと。そんなに急ぐことはない」腕をつかまれた香は、それを振りほどく
ことができなかった。抵抗しようとするとふっと意識が遠くなる。「そう、いい
子だねえ。ほんとうに惜しいよ」そう言う道誉の右手には、短刀が鈍く光ってい
る。
そのとき、澄んだ女性の声が廊下に響いた。
所狭(ところせ)く所置かざる逸り雄(はやりお)に
足結(あゆ)いの枷(かせ)のあるべくあるらし
(注)所狭し=窮屈である、あるいは、うっとうしい 所置く=(遠慮して)
距離を置く 逸り雄=血気盛んな男性 足結い=袴を引き上げ、膝の下で結ぶ
こと。また、その紐。本来は動きやすくするためのものだが、ここでは足枷の
意味に使っている。
くるくると短冊が舞う。「足結いの言霊、勧請」はるかが叫ぶ。
「おお、おおお」道誉はうろたえてきょろきょろと足元を見回す。足が動かな
い。「香ちゃん、逃げて」その叫びで自制を取り戻した香は、「はいっ」と短く
叫んで走り出す。そのとき、はるかの心が道誉から離れた。
「反魂香(はんごんこう)の返りごと、寄せては波の返しごと」道誉が歌うよう
に言うと、のしのしとはるかに近づいていく。「これは…ああっ」はるかが息を
呑む。はるかの足が、動かない。
(注)反魂香=死者を蘇らせるという伝説の香。中国の故事に登場。
「ふっふっほっほっほっ」道誉は高笑いする。「私も一種の言霊使いであること
を、甘く見ましたね」道誉は短刀を自らの目の前にかざし、笑みを浮かべてから、
その視線をはるかに移す。「はるかさん!」香が叫ぶ。「行って、行って香ちゃん」
はるかが甲高く叫ぶその声は、最後がかすれる。
「下衆野郎」
道誉の後頭部に、したたかに叩き付けられたのは、鉄をもしのぐ堅さの扇。道
誉はたまらず昏倒する。
「ぐわあっ」
うめいたのは、大童である。巴の長刀を受け、倒れ込んだ脇腹には真紅の横筋
が走る。
「兄様」はるかの声は漏れるように小さい。巴は笑っているようでもあり、笑っ
ていないようでもある。それが静かに大童に近づいていく。香も、はるかも、大
童も動けない。
スリーアイ戦闘司令室では、原田がメインスクリーンを放心したように見つめ
ている。何か言わないと。何か…「カツ子」
原田は、声の主を見上げた。
「カツ子。お前の恐れたのは、このことか。私には何もできないというのか」
田沼長官は、ふたりの子の危機から目を反らそうとしない。カツ子さんって、確
か大童君とはるかさんの、と原田が考えたとき、場違いな声が戦闘司令室に伝え
られてきた。
此の世でこそは添わずとも
巴は振り返った。さっき出番の終わったはずの自走文楽人形のスイッチが何か
の拍子に入って、「心中天網島」の続きを謡い始めたらしい。
未来はいうに及ばず
今度の今度のずっと今度の
巴の表情が大きく変化した。自走文楽人形をにらみつける形相は、人よりも鬼
のそれを思わせる。
其の先の世までも夫婦ぞや
(注)近松門左衛門「心中天網島」下之巻 名残の橋づくし より。
仮名遣いは現代の発音に直し、引用者の演出意図に沿って分かち書きを行いました。
「ええいっ」巴は気合を込めて、文楽人形を斬った。内部のメカシャーシが露わ
になる。息遣いが、荒い。やがて大童とはるかにひとにらみずつをくれると、巴
は昏倒した道誉の首筋をつかみ上げ、消えて行った。
「兄様」はるかは心配げに声をかけた。「大丈夫だ」大童は短く言う。「わかるの?」
「ああ、ぎりぎりだが。ただの服じゃないからな」
あらかじめ術者の念が込められた服は、見かけより外傷を防ぐ力が強い。内蔵
への重大な損傷は防がれているはずである。「でも、傷…」「大童さあぁぁぁんっ」
はるかを遮った大声の主は、大童以外は目に入らないという風で、駆け寄ってくる。
「大丈夫? 怪我ない? あるよね?」慌て切ってかきくどく奈美をにっこりと見た
はるかは、顔を上げて、戦闘司令室に映像を送る無人ドローンが浮かんでいるの
を見つけると、口の中で小さく何かを唱えた。
「ドローン17号、故障したようです。映像音声、共に入りません」善音が報告し
た。「はるかめ」田沼はにやりと笑うと、表情を引き締め直した。「くぐつ獣は
どうなっている」
「かぱっ」河童くぐつの勇ましい叫びと共に、またビルが上半分を吹き飛ばされ
た。そのビルの壁に、突然男の顔が浮かび上がると、告げた。「鎮西八郎殿、
巴殿がしくじった」「なんと」「すでに退いておる。貴殿も、はや立ち退かれよ」
「ここまで来て弱気になることもあるまい。この河童くぐつならば」「かぱっ」
河童くぐつが同意を示すように腕を振り、信号機を跳ね飛ばす。
「やんぬるかな。くぐつどもを我が子と思うているものを」穏やかに顔をしかめ
た晴明の顔が、壁に吸い込まれるように消えていく。
「現れたな、こってい鳥」鎮西八郎は勇み立った。前方からペンギンオーが近づ
いてくる。その額の飾り羽は、燃えるように赤い。
「ちょっと、どうしたのペンちゃん」香はペンギンオーの様子がいつもと違うこ
とに戸惑っていた。確かにペンギンオーは戦いに向かっているのだが、香の言葉
に対して、ほとんど反応を見せない。
「くえええぇっ」ペンギンオーが、空に向かって鳴いた。
「東京湾に、マンボオーが現れました」善音がメインスクリーンを切り替えた。
突然水面に現れた巨大船が大波を起こし、周囲の大小の船を揺らしている。それ
がわずかに静まった頃、マンボオーの背中に丸い穴が開いた。ひとつ、ふたつ、
みっつ。マンボオーの巨体に比べれば、さして大きいとは言えない。
ぽん! ぽん! ぽん!
乾いた音を立て、白煙を引いて、ロケット弾が穴から飛び出した。まっしぐら
に向かう先は、無論、河童くぐつ。
「笑止、笑止」鎮西八郎は自慢の強弓に矢を番え、続けざまに射ち放った。狙い
は過たず、それぞれのロケット弾へ矢はまっしぐらに飛ぶ。
と、そのとき。
ロケット弾は、矢が当たるのを待たず、はじけた。数十に分かれた子弾は、そ
れぞれ弓なりの弾道を取って、河童くぐつに襲いかかる。
「おっ、おのれええ」鎮西八郎は河童くぐつから飛び離れると、いずこへともな
く姿を消した。
胸といわず頭といわず、火矢のようなロケット弾の子弾を次々に叩き付けられ、
河童くぐつは燃え上がった。動きを止め、ゆっくりと傾き倒れる河童くぐつ。そ
れを呆然と見詰める香。
「す、すごい。あっ、でも、とどめに、ねえ、ねえペンちゃん」
ペンギンオーはくるりと向きを変えて、のたのたと歩き出した。背後で大きな
爆発音がとどろき、河童くぐつが四散する。
足元に交番があった。その交番を蹴飛ばすように、ペンギンオーは前足を踏み
出し、バランスを崩した。「くえええぇっ」「きゃああぁっ」ペンギンオーは横
転し、ビルをひとつ壊した。
「様子がおかしいな」田沼長官の見つめるメインスクリーンには、懸命に起き上
がろうとするペンギンオーの姿が映っている。
「歌さん、ペンギンオーはどこまで分かっているんだろうね」尼崎が言った。
「何をだね」「わしらが今回、香ちゃんを危険な目に遭わせてしまったことをさ」
「それを、怒っていたのかもしれないわね」原田が歌川と尼崎を交互に見た。
「機嫌の悪い人間が石ころを蹴飛ばすみたいに、交番を蹴飛ばそうとしたわけ?」
琴音がつぶやいた。
「あのマンボオーのロケット弾は、弓で防がれることを予期したような構造だっ
た。マンボオーは明らかに、動き出す前から、戦闘データを収集していたのだ。
おそらく」田沼長官は、メインスクリーンから目を離さなかった。起き上がろう
としたペンギンオーがまた滑って転んで、香が慌てている。「ペンギンオーとい
う目を通してな」
「マンボオーは、人間を滅ぼそうと思えば、滅ぼせるかも知れませんよ」歌川が
静かに言ったので、一座は言葉を失った。「兵器は想像の範囲内のものでも、瞬
間移動能力と結びつけば、防ぎようがありませんから」
「滅ぼされちゃうの?」菊音が小さな声で言った。「せっかくダイエットがんばっ
たのに」
みんなが歌川を見ていたが、歌川はそれ以上何も言わなかった。
「狙いが、分からないわね」原田が言った。「マンボオーの」
原田がペンキャリー格納庫の前を通りかかると、格納庫の扉の前で、香がうず
くまるように座っていた。夕陽がすべてを赤くしている。
「大童君は、しばらく入院だけど、後遺症は残らないって。はるかちゃんもブド
ウ糖の点滴だけで帰るって言ってたわ」
「大勢の人が、怪我したり、死んだりしてたんですよね」香が小さな声で言った。
「あたしがペンちゃんの中ではしゃいでいる間に」
「そういうことに、平気な人もいるわ」原田は香の横に座った。「でも、そうい
う人は、きっとペンギンオーに乗れないでしょうね。そんな気がするの」
「原田さん、あたし」香の言葉は、そこで途切れた。
沈黙を破った原田の声は、優しかった。「誰もあなたに強制はできないわ。で
も、香ちゃんはよくやったじゃない。ありがとう」
香は、原田に肩を寄せて、すすり泣いた。その肩を抱く原田の表情は、重く、
引き締まっていた。
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あくせくアクセス
夢を広げる場所がないから 折って畳んで網棚に乗せて
もしも願いがかなうなら 前の座席が空いたらいいのに
みんな幸せになりたくって 分け合うほど幸せじゃなくて
ひとり分の世界が欲しくて 近づき過ぎてると思ってる
あくせくアクセス あくせくアクセス いやなことまで覚えてられない
あくせくアクセス あくせくアクセス 今日はいいことあったらいいのにな
勉強積んで大人になったら 夢を捨てないでって習ったわ
悪いやつと戦うより ムダと向き合うほうが難しい
みんな少しずつ持ち込んだ 重みでトウキョウは沈みそう
私の夢の場所を空ければ 誰かの夢がすぐ埋めて行く
あくせくアクセス あくせくアクセス つらい分ほど幸せないけど
あくせくアクセス あくせくアクセス いつかいいことあったらいいのにな
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第7話「マインド・ゲームス」
「香ちゃん、早うしいな」イカさんの語気が、わずかに強い。
「あ、あの、ペンちゃんに、もう一度…」香の語気は、わずかに弱い。
「もう2度もさよなら言うたやろ」イカさんは語気を和らげるため微笑の成分を
混ぜようとするが、かえって語調に威圧感が増すばかりである。
「さ」タコさんはすべてを省略して、香の肩を叩いた。「行こ」
トレーラーに乗り込んで、むっつりと腕を組み上を向くイカさんと、うつむく
香。それをバックミラーでそっと覗いたタコさんは、ちょっと眉を上げてため息
を吐くと、エンジンをかけた。
「行っちゃいましたね」善音は言った。戦闘司令室のメインスクリーンに映って
いるのは、正門を出て行くトレーラーである。
「私たちが、香ちゃんを守れなかったんだから、仕方ないわね」原田は感情を殺
した声で応じたが、いくらかの慨嘆はまだ残っていた。「それにしても、あの音
楽家さんの剣幕ったら、ふふ」原田は老いた囚人のように静かに笑った。
「原田君」田沼長官が、遠慮がちに言った。「これからのことだが」
「奈美ちゃんもずいぶんペンギンオーと仲良くなってます。大丈夫ですわ」原田
は微笑んだ。「私たちだけでも、元気にやらなきゃ」尼崎と歌川が無言で顔を見
合わせた。すべての感情を互いに押し殺した顔であった。
奈美は、格納庫でペンギンオーと向き合っていた。
「ペンちゃん、あたし、またペンちゃんに乗れって言われたの」奈美の口調はど
こか可笑しそうで、悲しそうですらあった。
ペンギンオーは、羽をぱたつかせたが、何も言わなかった。
「ペンちゃん、香ちゃんと一緒に戦ってるの。それとも、遊んでるの」奈美は尋
ねた。「誰でもいいって訳じゃ、ないんだよね」ペンギンオーは空を見たままで
あった。
「あたしたち、ペンちゃんのこと、何にも知らないの。教えてくれないかな」
ペンギンオーは、奈美を覗き込むように見て、また視線を斜め上に向けた。
「ペンちゃんは、あたしたちのこと、どのくらい知ってるの」
「くえぇ」ペンギンオーは短く鳴いた。
「きゃっ」奈美は叫んだ。いきなり小鳥が奈美の肩に止まろうとしたのである。
ハトに似た小鳥はぱたぱたと側の椅子に止まると、首をちょっとかしげた。その
目がどこか無機質な表情をしていることに、奈美は気がついた。
「これって、ペンちゃんのドローンなの?」
小鳥の胸板がぱたんと下向きに開いて、小さな液晶画面が出てきた。その画面
に映ったものに気づいた奈美は、静かにため息を吐いた。「ほんとは、何でも分
かってるんだね」奈美は、優しい目で画面を見ながら、声を小さくして続けた。
「ありがと」
画面には、病室からぼんやりと窓の外を眺めている、若い男性の姿が映ってい
た。
スリーアイの正門脇に陣取った戦略自衛隊の指揮車から、生真面目そうな指揮
官が戦闘司令室に連絡を取ってきた。
「警戒配置を完了いたしました。微力を尽します」「よろしくお願いします」
原田は丁寧に言った。大童も負傷している今、はるかだけでは早期警戒が心もと
ない。
「原田さん、奈美ちゃんは、出撃できそうですか」尼崎が天候を聞くように尋ね
た。「頑張っていると思います」原田は短く答えた。「原田さん、少しは年寄り
にも、仕事を回して下さいよ」尼崎は念を押すように言った。「ひとりでみんな
背負い込もうとされることはない」原田は曖昧に笑って答えなかった。
「いざとなったら、ペンギンオーを放してやりましょう」歌川がぽつりと言った。
「あいつは、自分の意志でここにいるんじゃないでしょうか。理由は分かりませ
んがな。移動ぐらい、きっと自分で何とかしますよ」原田はため息を吐いて微笑
した。「そうですね。ありがとうございます」
控えめな音と共に、長官専用エレベータが戦闘司令室についた。「異状ありま
せん」「ああ」田沼長官は原田の報告に生返事で応じた。
一座はしばらく長官が口を開くのを待ったが、何も出てこない。歌川がさりげ
なく席を立った。「長官、今度の懇親会のことで、ちょっとお話があるのですが、
戦闘司令室ではなんですから、よろしいかな」
一緒に長官専用エレベータに乗り込んだ歌川は、浮かべていた微笑を振り払っ
た。ふたりきりのときは、歌川は田沼長官に、大学以来の親友として接する。
「今日は閣議に呼ばれていたはずだな」「こいつは驚いた。夢食いの歌さんも、
新聞を読むか」「ごまかすな」歌川は音を立ててエレベータの壁を突いた。
「何を言われた」歌川ににらまれて、田沼長官は下を向いて語った。「操縦でき
る目処が立たないなら、テロリスト集団の手に渡る前に、ペンギンオーを爆破し
ろと。首相の意向だ」
政府にはスリーアイへの直接指揮権はないが、政府の制度面・資金面での支援
がなければこのような組織が立ち行くはずもない。この場合、要請と命令の差は、
単なる時間の問題であった。その猶予も、それほど大きなものではない。
「どんなスイッチを押そうとしているか、奴等は分かっておらんな」歌川はうめ
いた。「そんなことになったら、マンボオーは日本を許さんぞ」
香たちは借りたスタジオで、久しぶりに新曲の練習に入っていた。
「ここんとこやけどな。もっとこう、最後までクレシェンドしてみたらどうやろ
な」「うん、ああ、そうだね。そうだよね」「ここの"なにかとっても"は真ん中
で息入れてみたらどうやろ」「うん、やってみる」「ほな、もう一回行こか」
「あ、あとで見て欲しい詞があるんだけど」
香はひたすらにこやかで、イカさんはどこかおどおどしていた。今日は一度も
意見がぶつからない。ぶつかりそうになると香が折れるからである。こんなこと
は今までになかった。
端末を片手に、例によって快活に通話しているタコさんは、ミキシングルーム
の厚いガラスの向こうから、いぶかしげな目をふたりに向けていた。
第3新富士市が木っ端武者たちの攻撃を受けているという報がスリーアイに入っ
たのは、翌日のことであった。
「奪え、者。壊せ、者」人影といえば倒れているものだけになった大通りを、大声
で呼ばわりながらのしのしと歩くのは、悪源太である。「臆したか、出てこいこっ
てい鳥」鎧武者が持ち上げひっくり返した乗用車から、弱弱しいスパークが飛ぶ。
ぱらぱらと人影が動く。陸上戦略自衛隊が展開してきたのである。九九式レーザー
ライフル(2199年採用)の火線が音もなく飛び交う。穴だらけになった鎧武者たち
は、それでも前進を止めない。「ミサイルランチャー、目標300、射撃開始」指揮
官が少し震えた声で叫ぶ。ぽん、と乾いた音がして小型誘導ミサイルが円筒形のラ
ンチャーから打ち出される。
「推参なりいいぃぃ」悪源太がくわっと目を怒らせると太刀を抜き放ち、飛来する
ミサイルに駆け寄ると狙い過たずミサイルを下から峰打ちにすくい上げる。下向き
になって地面にぶつかろうとするミサイルに悪源太がふうと息を吹きかけると、ミ
サイルは向きを変えて自衛隊の隊列に飛び込んでいく。
爆発音と悲鳴を背景として、悪源太の笑声が風に運ばれていった。
「止まりなさい。君、君…ぐわあぁっ」突き飛ばされた自衛隊員は、大地に叩きつ
けられた。スリーアイの正門を守る部隊に、正面から金時が襲い掛かったのである。
金時の動きは意外に素早く、常に自衛隊員のそばにいるので、銃を構える隊員も味
方撃ちを恐れて発砲できない。指示が飛び交うが、どの指示も混乱していて、状況
を打開できない。「むうん」金時が覆い被さってきた自衛隊員を3人まとめて投げ
飛ばした。
隊員がひとり、急を告げに門内の本部に走りこもうとしたとき、澄んだ女性の声
が構内に響いた。
友垣はいかにあらんと鏡なす思いの淵に射すは誰(た)が影
(注)鏡なす=祭器である鏡を扱うように大切に、という意味を込めた、「思う」
の枕詞。
暗い影の粒子がつむじを巻いて集まり、見る間に走りこもうとした隊員を押し包
んだ。低いうめき声に続いて、影の粒子が飛散したあとには、山伏姿の男が残され
ていた。
「よく仕組んだわね」はるかはいつの間にか、スリーアイ守衛所の上に現れていた。
「通さないわよ」はるかは短剣を抜き放った。
「後悔するぞ、小娘」小角は低く言った。手にした錫杖(しゃくじょう)がじゃら
んと鳴った。
「原田君、ペンギンオーを出撃させたまえ」田沼長官の口調は、深刻な状況には不
釣合いなほどのんびりしていたので、原田は思わず聞き返した。「出撃、ですか」
「そうだ。どこか海の近くがいいな」「どこか…って」原田が絶句する。「必要が
あれば、ペンギンオーを放棄してもかまわん」田沼長官はぷいと横を向き、原田の
顔には理解と感謝の表情が浮かび、歌川は下を向いてくつくつと笑った。
「原田主任、はるかさんが、押されています」善音の鋭い声が、せっかく柔らかく
なった戦闘司令室の空気を一変させた。
正面からの斬り合いになれば、やはり小角に分があった。正門の自衛隊員たちは
金時にてこずっていて、はるかの様子に気が回らない。壁際に追い詰められたはる
かの肩は、大きく上下していた。
「小娘、よく戦った」じりじりと間合いを詰める小角。その視線が、大きく後ろに
それた。しかし錫杖では、巨大なこぶつきのロープを止め切れない。「ぐわっ」
短くわめいた小角は数歩あとに下がった。
「兄様」危地を脱したことも忘れ、はるかは目を見張った。「もういいの」「いい
わけないだろう。看護婦は殴らずに済んだが、医者はふたりばかり」「兄様、その
ロープ」はるかは吹き出した。大童が手にしたロープは、シーツを引き裂いてつな
いだものだった。「おのれ」小角から再び殺気がほとばしる。「はるか、退くぞ。
ペンキャリーが今出る」「何ですって」
「ペンちゃん、いま原田さんから命令が出たの。あたしたちじゃペンちゃんを守り
きれないから、ペンちゃんをマンボオーに返すんだって。いっしょに行ってくれる」
奈美はペンギンオーを見上げて、優しく言った。「あの、あたしのことペンちゃん
はどう思ってるかわからないけど、もっとお友達に」一生懸命にかきくどく奈美の
言葉を、ペンギンオーは聞いているのかいないのか、さっきから遠くのほうをじっ
と見ている。「ペンちゃん、時間が」せきたてようとした奈美のそばで、小さな羽
ばたきが聞こえた。
ドローンバードの胸が開き、道路らしいものの様子が映し出された。
「これは…わかった。すぐ行きましょ」奈美は元気に声をかけた。
休憩時間、カフェオレの紙パックを持っていることを忘れたように、香はぼんや
りと座っていた。
「香ちゃん、ちょっといい」タコさんが隣に座った。珍しく火のついた煙草を持っ
ている。よほど疲れたときや、元気を出したいときしか吸わないらしいのだが。
「まだ、人が死んだり傷ついたりしたの、自分のせいだと思ってる?」「そういうん
じゃないの。ただ、見てるのがつらくって」「似たようなもんよ」タコさんは香の
ほうを見ずに言った。
「香ちゃんが何もしなくたって、人は生きてるし、死んでるのよ。あたし、この世
界長いでしょ。お友達がたくさん死んだわ。ああ、もちろん、音楽的にって言う意
味よ」タコさんは香の表情を覗き込むようにして、くすりと笑うと、またそっぽを
向いた。
「なんにも、できなかった」タコさんの口調は、むしろ明るかったが、そのあとに
続く短い沈黙が意味を逆転させた。香が見たことのないタコさんがそこにいた。
「自分に何ができるかが、一番大事なんじゃないの」タコさんは重いものを降ろし
たように、ため息をついた。「あたしなんて、何にもできないけど、でも、今はペ
ンちゃんといっしょにいたい」小さくはっきりした声を聞いて、タコさんは微笑ん
だが、それきり香が口ごもってしまったので、タコさんは香の肩を叩きながら、小
さな声ではっきり言った。「イカちゃんだってわかってくれるわよ」
香はタコさんを見上げた。その表情に吹っ切れたものを感じたタコさんは、また
あらぬ方向を向いた。「はっきり言っておきますけどね。香ちゃんが音楽に戻って
きてくれて、あたしはうれしいのよ。でも今の香ちゃんは、自分のやりたいことを
やってない」「タコさん」「あちちちちちちちちいっ」
伸びるだけ伸びた煙草の灰が、タコさんのひざの上に落ちていた。
「とにかく車に乗ってなさいよ。イカちゃんにはあたしがうまく言ってあげるから」
話しながら香とタコさんがトレーラーまでやって来ると、先客がいた。
「イカさん?!」
イカさんは、トレーラーの後部座席でふてくされたように目を閉じていた。わざ
とらしく片目を開けたイカさんは、また目を閉じた。
「こっそり聞いてたわね、イカちゃん」「詞、見たる言うて、約束したよってな」
タコさんは声を出さずに身振りだけで爆笑すると、香を促した。「手間が省けたじゃ
ない。行きましょ」
「やっぱり、気になってたんだ」「え?」「なんでもないなんでもない」タコさんは
トレーラーのエンジンをかけた。イカさんがまた薄目を開けて、閉じた。その瞬間、
半秒だけ微笑したのを、タコさんはバックミラーでしっかり見ていた。
轟音と噴煙を残し発進するペンキャリーを呆然と見ていたのは、大童とはるかだ
けではなかった。「ええいっ、マンボオーと合流するつもりか。その前に叩き落し
てくれるわ」手早く印を結んだ小角は大烏の姿に変じると、「かあああぁ」と一声
を残して飛び上がった。
「兄様」どうするの、と言おうとしたはるかの端末が鳴った。「大童、病院から、
その、問い合わせが来たぞ。派手にやってくれた」田沼長官の声は楽しそうだった。
「元気ついでに、町から鎧武者を追い払ってくれんか」「あの烏はどうします」
「あちらは奈美君が何とかするだろう」「わかりました」通信を切って、はるかが
言った。「奈美ちゃん、大丈夫かしら」「それだけ今回はぎりぎりだということさ」
大童は気遣わしげに空を仰いで、言った。「行くぞ」
大きな衝撃がペンキャリーの操縦席を襲った。大烏が体当たりをかけてきたのだ。
機体が傾くのを補正しながら、奈美はつぶやいた。「主翼が傷ついたわね」
もう一度衝撃が来た。第4エンジンの燃焼灯がゆらめいて消えた。異常音に気づい
た奈美が外を見ると、エンジンから炎が上がっている。「もう少しだって言うのに」
ペンギンオーのクローンバードは操縦席に乗り込んで、仲間からの映像を中継し続
けている。そこに映っている香たちのトレーラーは、それほど遠くないところに来
ていた。
「奈美ちゃん、こうなったら高度を下げて速度を稼ぎましょう。そして空中でペン
ギンオーを離すの」「それって、急降下爆撃じゃありませんか」「それしか方法が
なさそうよ。大丈夫。ペンギンオーは丈夫だから」「くええええっ」通信を傍受し
ていたペンギンオーがペンキャリーの中でじたばたと暴れたが、奈美は気づかなかっ
た。「ペンキャリーが保つでしょうか」「ペンキャリーは地球を7周半できるのよ。
急降下爆撃くらいできるわ」原田はにこやかに請け合った。
*注 この物語はフィクションです。
「わかりました。いいわね、行くわよ」「くえええええっ」同意を求められたと思っ
たペンギンオーはまたじたばたと暴れたが、そのつもりのない奈美は気づかなかっ
た。「ペンキャリー、ダイブ」自分を励ますように奈美は叫ぶと、操縦桿をぐいと
押し込んだ。
猛烈なGが襲ってくる。気体のきしみが聞こえてきた。「壊れないで、お願い」
ふと音がひとつ消えたことに気づき、外を見ると、高速の降下によってエンジンの
火が消えていた。
「3、2、1、レリース!」ペンギンオーは落とされて地面にめり込む。奈美は懸命に
操縦桿を引いて機首を引き起こす。「お願い、失速しないで」思わず叫ぶ奈美だが、
お願いで済めば物理法則は要らない。幸いに空中分解は免れ、青々とした水田をな
ぎ払うように、斜めにかしいで胴体着陸することができた。
「ペンちゃん、大丈夫」トレーラーから転がるように出てきた香は、地面から頭を
抜いてぷるぷると振るペンギンオーに呼びかけた。「くえぇ」ペンギンオーはうれ
しそうに叫び声を上げると、トラクタービームで香をコクピットに迎え入れた。
「おっ、おのれええ」凄みのある声が大烏から漏れた。攻守は逆転したのである。
「覚えておれ」大烏は大慌てで逃げ出した。香の前のディスプレイに、ペンギンシャ
ウトのターゲットスコープが開いた。ぴたりと大烏を照星に捕らえている。
香は声を出そうとして、出せなかった。大烏は向かってこない。それが人の姿も
とりうることを、香は直感的に知っていた。
ターゲットスコープの表示が、二度点滅して、消えた。「そうだね、ペンちゃん、
人の姿をしたものは、後ろから撃てないよね」香は力なく言った。
打ち上げパーティーは普段より盛大なように歌川には感じられたが、それはきっ
と香たちの復帰歓迎会を兼ねているせいだろうと思っていた。だから宴たけなわで
田沼長官に呼ばれたとき、歌川の心には何の警戒心もなかった。
「ペンギンオーを傷つけると、日本に災いが起こるといったのは、歌川君だったな」
「はあ、そうですが」「さっきからペンギンオーのドローンバードが、ひとつの映
像だけを繰り返し見せるのだ」「はあ?」歌川は覗き込んだ。
レールガンで射出され、地面に叩きつけられるペンギンオー。(第1話参照)
いきなり歌川は背後から羽交い絞めにされた。「すまん歌さん、俺と一緒に日本
繁栄の礎となってくれ」尼崎である。「やめろ、やめろ源さん」歌川の声が上ずる。
ドローンバードの画像が変わった。去年、218年ぶりに阪神が優勝したときの祝勝
会の場面である。
女性たちが、立ち上がった。手に手に、同じものを持って。
「歌川さん、すみません」沈痛な声で原田が言った。ビール瓶が一斉に、上下にゆ
らゆらと振られる。田沼長官が重々しく言った。「承認する」
三つ子オペレーターが声を揃えた。「優勝おめでとうございまーす」
ビールの放列を浴びた歌川と尼崎は、泡まみれになって絶叫した。それを見届け
たペンギンオーは、ぷいと上を向いた。
*良い子はまねをしてはいけません。
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ワイルドカード
カードの裏は優しい人が 思いを込めたマジックスクエア
白い表はこれから描くの なにかとっても素敵なことを
スピード計を読むんじゃなくて 風の強さを身に浴びたい
プロジェクターのスイッチ切って 1分の1で元気にあいさつ
カードの裏は近しい人が 願いをかけた星々の姿
白い表はこれから描くの 描かなくちゃって感じたことを
集まれ集まれ私の力 使いたいことがこんなにある
最初に描くのは友達のこと 私の笑顔を真ん中に大きく
私の名において
私に命じます
ほんとうの姿を私に示して
すべてのパワーを私に貸して
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第8話
「三つ子オペレーターは見た湯けむり豊後秘湯の旅事件スリーアイ西へ」(上)
香は窓に張り付くように、眼下に広がる瀬戸内海の島々に目を奪われていた。
「ねえねえ、小豆島ってどれ」窓から目を離さずに尋ねる香に、大童が面倒そう
に言った。「30分ほど前に通り過ぎたな」「じゃあ、じゃあ、淡路島ってどれ」
「香ちゃん」タコさんが袖を引いた。「恥ずかしいからもうやめて」
スリーアイの大型連絡機ビッグボイスは、香たちを乗せて、松山上空から伊予
灘へ差し掛かろうとしていた。年に一度のスリーアイ友の会(第3話参照)慰安旅
行で、大分の別府・鉄輪(かんなわ)温泉に行くところである。
「ペンちゃん、おとなしくしてるかな」「フライトプラン通りに飛んでるみたい
よ」はるかが言った。移動司令室装備(第4話参照)を積んだペンキャリーも、
少し遅れながら国東半島の大分空港に向かっている。
「そういえば、飛んでるうちに出動になったら、どうするんですか」「心配ない。
そのための装備はついているよ」田沼長官は言った。「あれだ」「へぇー」香は
田沼長官の指す方を見た。天井に丸いハッチがある。その意味が香に浸透するま
でたっぷり1秒かかった。「ひぃー」香は声にならない声を上げて固まった。
「我々はあれを勇者ハッチと呼んでいる」田沼長官は言った。「あんなところか
ら顔を出せるのはよほどの勇者だけだ」「だが、そういうのは本当の勇気じゃな
いな」歌川が混ぜ返した。「自分で設計しといて何を言うんだね」尼崎が歌川を
笑うと、歌川も大声でやり返した。「わしは冗談のつもりでスジを引いたのに、
本当につけちまったのは源さんじゃないか」
「勇者じゃなくてもいいですぅ」香は小さな声で言った。
スリーアイと友の会のメンバーは、ぞろぞろとビッグボイスから降り立った。
西日本のメンバーとはホテルで合流する約束である。
国東半島の南側は東西に細長い別府湾である。別府市北部の鉄輪温泉は湾の一
番奥にあるので、国東半島の先端にある大分空港からは、湾の北側をぐるりと半
周することになる。
観光バスに乗ろうとしたはるかは、なにか力の気配を感じて、ふと空港ビルに
目をやり、つぶやいた。「母様…」
「なんだと」振り向いた田沼長官の口調の真剣さに、近くを歩いていた香は思わ
ず2歩下がった。空港ビルのコンコースを走るはるかの様子も、戦闘の最中かと思
う気の入り方である。そのはるかが立ち止まり、見回し、とぼとぼと戻ってきた。
「気のせいだったみたいね」その口調に、香はまったくべつのニュアンスを感じ
取った。確かに、いたのだ。だが…会えなかった。
会うことを拒まれた、というべきか。
「それでは、シフトを発表します」原田の前で、三つ子オペレータたちはこれ以
上ないほど神妙な表情をして並んでいた。それを見渡してくすりと笑った原田は、
目の前に持っていた紙を制御卓の上に置いた。「当直は、なし。昼は私がペンキャ
リーに詰めます。夜は歌川さんと尼崎さんが交代で連絡役になってくれるわ。み
んなも連絡の取れるようにしておいてね」
「ありがとうございますぅ」3人の声が揃って、はじける笑いがそれに続いた。
せっかくの九州旅行なのに、移動司令室の当直で過ごさなければならないとした
ら、こんな悲しいことはない。
宿泊先である鉄輪ハイドロジェットホテルで、香ははるかと同室することに
なっていた。部屋で荷物を降ろしておずおずと挨拶する香に、はるかは問われな
いうちから、ひとりごとのように話し始めた。
「あたしたちの母様ってね。田沼カツ子って言って、4年前に、いなくなっちゃっ
たの。マンボオーが地球に落ちて、スリーアイがそれを調べ始めて、すぐだった
わ」「どんな方だったんですか」「そうね。普通のお母さん」さばさばとした口
調で言ってから、はるかは自嘲するように付け加えた。「でも普通じゃないな。
絶対普通じゃない」
香が先を聞きたげに黙っているので、はるかは続けた。「父様って、普通の人
なの。超能力なんかないのよ。それで、あたしも兄様も、こんなでしょう。母様
がすごいの。絶対。でも、どんな能力を持っているのか、結局わからなかった」
はるかは「結局」という自分の言葉に傷ついたようにうつむいた。「父様も、
母様の能力については、何も教えてくれないし。とっても悲しい能力らしいわ」
「悲しい能力?」香は問い返した。「そのことを尋ねるとね。父様がとっても悲
しそうにするの。だからそれ以上、心が読めなくて。ごめんなさいね。変な話
して」はるかは気を取り直したように明るく言った。「さ、しばらく市内観光
しない?」
「わー」「わー」「わー」もうもうと湯気を立てるコバルトブルーの温泉に、
三つ子オペレータは不ぞろいな嘆声を上げた。別府名物のひとつ、海地獄であ
る。涼しげなその名とは裏腹に、湯温はじつに94度に達する。「おいしそう」
菊音が言った。「えーとね。この青いのはね。硫酸鉄だって」琴音が観光ガイ
ドを読み上げた。「硫酸鉄って、おいしい?」「知らないわよそんなこと」ふた
りのやり取りを善音はくすくす笑いながら見ていた。
「あ、香ちゃ〜ん」観光客向けの茶店で団子をほおばっていた三つ子オペレー
タは、はるかと香に行き会った。「やっほー。あ、おいしそう。なにそれ」
「やせうまって言うんだって」口の回りをきな粉だらけにした菊音は答えた。
やせうまは大分の郷土菓子で、ゆでた細長い団子である。菓子として食べると
きはきな粉などをつけるが、汁物や鍋物に入れたものはだんご汁という。
「宴会前におなかいっぱいになっちゃうぞ」はるかが冷やかした。「大丈夫よ。
ビールとかは別腹だから」「うんうんそうだよねえ」善音に思わず相槌を打っ
た香を見て、明るい笑い声がはじけた。
別府市内には8つの「地獄」があって、そのほとんどは歩いて行けるくらいの
距離にある。入場券も共通だから、次の地獄へ連れ立って行こうと言うのは自
然の成り行きだった。
「わー」「わー」「わー」「わー」「わー」山肌から蒸気が盛んに立ち昇る「山
地獄」に、三つ子オペレータとはるかと香は不ぞろいな嘆声を上げた。
その様子をじっとうかがっている、ふたつの影があった。
「小娘に気取られずに近づくことは難しいな」小角が話し掛けたのは、縦縞の
和服を着て力士に扮した金時である。小角自身はTシャツにジーンズの若者の姿
をとっている。
「誰でもいい。離れたとき、さらう」金時は言った。
「じゃ、あたしたち、宴会の福引とか準備するから」「ごめんね。あたしたち、
もう少し見て回っとくね」オペレータたちと香たちは、再び離れ離れになるよう
だった。「行くぞ」低く小角が言った。しかし彼らの誤算は、菊音がまっすぐ彼
らに向かって歩いてきたことだった。
「おすもうさんだぁ」菊音は大きな声を上げた。「あ、どうもすみません」琴音
が愛想笑いをしながらお辞儀する。「芸名はなんていうんですか」「四股名よ、
四股名」琴音が菊音をたしなめる。会話の展開の早さに、小角はついていくのが
やっとである。「あ、あの、この関取は、その、金時富士といいまして」
「へえー」冷や汗をかいているのは小角のほうである。「あ、どうもすみません。
ハワイ出身なもんで、まだ日本語がちょっと」「そんなに早く関取さんになった
んですか。すごいですねえ」菊音は金時の顔を下から見上げるようにした。「お
やすみなんですか」「あ、はい、ちょっと湯治に来ておりまして」愛想を振り撒
く小角には目もくれず、金時が無言のまま、無愛想に頭を下げた。「早くよくな
るといいですねー。必殺技って何なんですか」「菊音ったら、それを言うなら得
意技でしょ」「えー、それは、その」小角は口ごもった。「菊音、失礼じゃない。
じゃ、私たちはこれで」善音が会話を収めてくれたので、小角は安心したように
力なく笑った。「あ、どうも、では、これで」
「まったく、冷や冷やさせる。金時、どうした」金時は後ろを向いて、ぼんやり
と3つ子のあとを目で追っていた。
「若い女が珍しいか。無理もないが、身を滅ぼすぞ」小角の声には、どこか柔ら
かいものが混じっていた。「気がそがれたな。機会はまだあろう」小角は金時を
促すと歩き出した。
「ねえ見て見て」こちらをちらちらと見ている、恐ろしく派手なハイビスカス柄
のワンピースを着た女性と、夏の盛りに高そうなスーツを着た中年男の組み合わ
せを見て、琴音が小声で言った。「きっと大金持ちの狒々爺(ひひじじい)で、
愛人さん連れてるのよ」「いいなー。何でも買ってもらえるんだろうなー」菊音
が言った。「ぬいぐるみとか買って欲しいんでしょ」琴音が混ぜ返した。「うん。
おっきなカメさんのぬいぐるみが欲しいの」菊音が勢い込んで言うので、善音が
吹き出した。
オペレータたちはひそひそ話のつもりだったが、常人をはるかに超えた聴力の
持ち主であるふたりには、すべて聞こえていた。「聞いたかね。やはり我々はお
似合いに見え、うおおおおっ」何気なく肩に手を回そうとした道誉は、巴のハイ
ヒールにしたたかに足の甲を踏まれ悶絶した。すたすたと歩み去る巴に取り残さ
れ、オペレータたちのくすくす笑いも耳に入ってくる道誉は、ただうめくばかり
であった。
光もないのに暗くなく、壁もないのにさえぎられた不思議な空間で、片足を引
きずって歩く道誉の様子をにこりともせずに見ている人物がいた。若い男。若い
というより、年齢を感じさせないと言ったほうがいいかもしれない。
「やはり、任せても置けぬか」つぶやくような声は、冷たい。
「お出ましになりまするか」壁ともつかぬ壁に、人の顔が浮かぶ。
「是非もなかろう。晴明」
「なんなりと」
「何を着ていったらよいと思う」
「御意のままに」晴明は笑った。「お望みの姿をまとうてお行きなされ。ほっほっ」
別府にはいろいろなタイプの温泉があるが、このホテルの露天風呂は食塩泉で
ほぼ透明である。「きゃはははー」「やったなー」三つ子オペレータたちが湯を
掛け合ってはしゃいでいる。香はぼんやりとその様子を眺めていた。
「少名(すくな)が動いて来るわ。気をつけて」背後から落ち着いた女性の声が
して、香はびくりと身をすくませた。ゆっくり振り返ると、初老と言ってもいい
年齢の女性がいた。決して大柄ではないが、凛とした気構えが伝わってくる。
「暗鬼党の首領よ」問われもせずに、女性は香の疑問に答えた。「あなたたちを
捕まえれば、ペンギンオーやマンボオーが手に入ると思っているの。特にマンボ
オーね」「どうして、そんなことを」「事情があるのよ。船のことを聞く人がい
たら、気をつけて」
「船のこと?」謎の女性はうなずくだけで、それ以上のことを説明せず、別のこと
を口にした。「はるかには、私のことは内緒にして」その言葉で、香ははっと気
がついた。「あなたは…」
そのとき、がやがやと老人の一団が大声で話しながら露天風呂に入ってきた。
それにまぎれるように湯けむりの向こうに去っていく女性を、香は強いて呼び止
めることができなかった。
「ごめんごめん。タオルを部屋に忘れちゃって」はるかも風呂に入ってきた。
「はるかさん、部屋に変わったことはなかったですか」香に問われて、はるかは
きょとんとした。「え? 別に。あたしってそそっかしいから、こんなことしょっ
ちゅうよ。どうしたの」「え、いや、なんでもないです」香は笑ってごまかした。
先日の襲撃事件(第6話参照)以来、はるかは香のそばをほとんど離れようと
しない。飛行機を降りてから、この10分ほどが、はるかが香と離れていた一番長
い時間である。そのことに作為がないとすると…
「あんたたち、スリーアイの人かね」老人の団体のひとりが、香の考えをさえぎ
るように、気さくに香に声をかけてきた。「あ、はい、そうですけど」「まー、
あの、なにじゃねえだか。あの大きなガマに乗ってなさる」「ペンギンですっ」
「来栖かおりちゃんやがな。カラオケジャポンの先月号見たで」「ああ、ありが
とうございますぅ」そういえばそういう取材もあった、と香は思い出した。
口々に話し掛けてくる内容を総合すると、おばあちゃんたちは、暇さえあれば
日本全国の温泉を旅して回る温泉ファンらしい。行く先々の温泉で行き会うので、
すっかり互いに顔見知りなのだ。「あ、ああ、女性のファンが増えるって、とっ
てもうれしいですぅ」香は自信なげに言った。「男もいるよ。おじいちゃんしか
いねえけど」「ロマンスグレーも、ちょっこし通り越してっけど」遠慮のない笑
い声が浴場に響いた。
「28番、火を噴きますっ」「おー。やれやれー」宴会もたけなわに、スリーアイ
友の会の隠し芸大会は果てしなく続いている。なにしろ超能力者の団体だから、
消すにせよ噴くにせよ読むにせよ、諸事派手である。
「そういえば、香ちゃんはどこへ行ったんだ」浴衣姿で赤い顔をした田沼長官が
ふと周囲を見回したとき、隣の広間から聞こえてきた声に、タコさんはひっくり
返り、イカさんは立ち上がり、残りのスリーアイの人々は首を回した。
「酒は心の汗だからぁぁ」温泉マニアのおじいちゃん・おばあちゃんのカラオケ
宴会に紛れ込んだ香は、勧められるままに演歌をうなっていた。「ええどぉ」
「香ちゃーん」いろいろなお国なまりで声がかかる。
別府の夜は、ひたすらにぎやかに過ぎていった。
「今日はどこ行こうか」ホテルのロビーで待ち合わせていたのは、3つ子オペレー
タ、香、そしてはるかである。「今日は奈美ちゃんも誘おうよ」はるかが言うと、
善音が苦笑しながら首をかしげた。
「ちょっと誘いにくいわねー。あからさまにごちそうさまだもんねー」琴音が言っ
た。「ごちそうさまよねー」善音が相槌を打った。「何か食べに行ったの?」
「あんたはわかんなくていいの」琴音が菊音をさえぎった。
奈美はずっと大童と行動を共にしている。大童はいわば警備責任者だから、ホ
テルに真っ先に入って、昨日はずっと待機していたのである。
「誰がごちそうさまよー」うれしはずかしという表情と声で、奈美がロビーに下
りてきた。「あたしも付き合うわ。午後は長官たちと合流しましょうよ。別府タ
ワーに行くんだって」
別府市の誇る100メートルのテレビ塔であった別府タワーは、展望台としては
もちろん、地域の各種携帯通信のための通信塔として、23世紀にも使われ続けて
いる。
「長官じゃなくて、兄様と、でしょ」「もう」からっとした笑いの渦ができた。
「ごちそうさま、か」「えっ」「なんでもないの」つぶやきを聞かれた香は明る
く言った。
「イカちゃん」
「なんや」
「こんなとこにいていいの」
「なんでや」
「せっかく旅行に来たんじゃない」
「わし、そういう趣味ないねん」
「あたしのことじゃなくて、もう、香ちゃんのこと」
「それがどないした」
「修学旅行じゃないのよ。素直じゃないんだから。九州まで来て何やってるのあ
たしたち」
「どこでも行ったらええがな。ひとりで」
「もう、心配してあげてるのに」
「静かにしたれや。編み目間違うやろ」
別府名産の竹細工教室に来て、ふたり並んで花かごを編んでいる、タコさんと
イカさんであった。
「わにー」「わにー」「あ、わにー」もうもうとした湯気の間から見えるワニ
の姿に、三つ子オペレータたちは不ぞろいな嘆声を上げた。別府名物のひとつ、
鬼山地獄である。温泉熱を利してワニを飼っている。
「ねえ、そろそろ別府タワーへ行かないと、待ち合わせに遅れちゃうよ」はる
かが言った。
「別府タワーで待ち合わせ。別府タワーで待ち合わせ」休憩所の陰でぶつぶつ
つぶやきながら、扇で手のひらから砂を飛ばしているのは、相変わらずウール
のスーツを着込み、額いっぱいに汗の玉を散らした道誉である。道誉が飛ばし
た砂は、きらきらと光りながら下へ落ちず、南を指して風に乗って行った。
第9話
「三つ子オペレーターは見た湯けむり豊後秘湯の旅事件スリーアイ西へ」(下)
「合図があったら、総がかりだ。首領がだれかを人質に取る。そこを一網打尽だ。
いいな」金時は相変わらず無言だが、小角にはその微妙な心の動きが読み取れた。
「迷いは己を殺すぞ、金時」小角は厳しく言うと、別府タワーの近くのビルの屋
上から、成り行きを見守った。
別府タワーは鉄輪よりも数キロ南にある。先に来て待っていた長官たち一行に
続いて、タクシーに分乗した香たち一行が到着したところである。
「もし、別府ベイクルーズの乗り場は、どちらですかな」一行に声をかける中年
男がいた。しわだらけの額に吹き出る汗を、日本手ぬぐいで忙しく拭いている。
クルーズ? 船?
「あなた、少名ね」香の鋭い声が飛んだ。「あ、なんのことでしょうかな」男は
言ったが、すでに大童とはるかの鋭い視線は男に飛び、雰囲気を察した残りの一
行は男から離れようとしていた。
「まだ我らの知らぬ力があるというのか」その声はすでに中年男のそれではなかっ
た。男が左腕を振ると袖の部分の布が怪しく伸びて、反物のように全身を覆った
かと思うと、白い麻の貫頭衣(かんとうい)をまとった上代日本の少年が姿をあ
らわした。
「我らもこれ以上、貴様たちと遊んでいるわけにも行かぬ」少名が手を上げると、
ハイビスカス柄のワンピースを着た女性が長刀を構えたまま、ビルの屋上から舞
い降りてきた。別のビルからは、ジーパンの青年が錫杖を鳴らして壁を垂直に駆
け下りてくる。
しかしはるかは、すでに備えの歌を詠じていた。
筑紫(つくし)なる一の出で湯のいつくしき
いや禍事(まがこと)はいや天離(あまざか)れ
注:筑紫=ここでは九州 いつくし=うつくしとほぼ同義
いや=非常に、ますます 天離る=離れる、遠くにある
「嘉言、かしこみ申さく、天離る言霊、勧請」目には見えるが触れることのでき
ない波が立ち、球状に広がって、少名を押し出し、巴と小角を跳ね飛ばした。歌
を書き付けた短冊は頭上でくるくると回り続け、悪意あるものの接近を阻んでい
る。
その波の広がりが、止まった。低いうめき声を上げながら、金時が波を両手で
受け止め、じりじりと押し戻す。大童がふところから扇子を取り出し、身構える。
金時は笑わない。しかしその顔は、勝利の興奮に輝いていた。
ふと金時の目に、菊音の姿が映った。ストレートの黒髪に包まれた顔のその目
は見開かれ、丸い眼鏡の奥から金時をじっと見つめている。おそらく、前日出会っ
た力士であることも、すでに気づいたことだろう。
金時の力が、抜けた。念の波が弾力を取り戻し、小石のように金時を跳ね飛ば
した。
「言う甲斐なき者どもよ。晴明、晴明」少名の呼ばわりに応じて、別府湾が波
立った。白い波が輪になり、やがて人の顔を形作る。「御自らのお呼び出しとあ
らば、取って置きのこってい牛をば参らせましょう」
「もおおお」鳴き声も勇ましく、黒々とした図体に白く光る角を振り立て、牛く
ぐつが海の底から現れ、踏み荒らされる波打ち際に激しくしぶきが上がった。
「いかん、別府タワーが危ない」田沼長官が叫んだ。
「ペンギンオー、出動だ」「はいっ。あっ」返事をした奈美に注目が集まった。
ペンキャリーは大分空港にいて、奈美は別府にいる。その距離、ざっと30km。
「長官、私が操縦します」携帯端末を通じ、静かな声で、原田が言った。
「しかし、君」「講習は受けています」「講習といってもだな」「確率の壁を
超えるのが、勇者の証ですわ」原田はいいつのった。「よかろう。他に方法は
ない。承認する」田沼長官がうめくように言った。「くえええっ」通信を傍受
したペンギンオーが暴れたが、相手にしてもらえなかった。
「ペンキャリー、発進。あらっ。きゃーっ」原田はブレーキを踏まずにパワー
レバーを押したので、エンジン点火と同時にペンキャリーが滑り出してしまっ
たのである。「くええぇえぇ」不安そうなペンギンオーの叫び声が大分空港に
虚ろにこだました。
「ほうれほうれ」「もおおおお」オーロラのように空にたなびく赤い布をめが
け、牛くぐつは突進した。赤い布の向こうの別府湾に突っ込んだ牛くぐつは、
鈍い水音と共に海水の飛沫を高く跳ね上げる。赤い布の正体は、大童が操る幻
影である。ペンキャリーが到着するまで、市街地の被害を最小限度に止めよう
というのである。
「小賢しい」声が響くや否や、その幻影の赤い布はくるくると巻き取られ、雑
巾のように絞られた。「小角か」大童があたりを見回すと、哄笑と共にビルの
屋上に小角の姿が現れた。その姿はすでに山伏のそれである。
「兄様、来たわ」香や長官を守っているはるかが叫んだ。飛来するペンキャリー
のコースが、どうも安定しない。「誰か止めてぇ」原田が叫ぶ。いくらVTOLで
も止まれば落ちる。「別府タワーの北側に海水浴場がある。そこに下りるんだ」
田沼長官が叫んだ。「お願い、逃げてぇ〜」機外マイクを使って原田が叫んだ。
夏のことで、海水浴場は海水浴客でいっぱいなのである。滑走路脇のやしの木
が倒れるように、海水浴客がペンキャリーの進路に当たる空間から逃げ出して
空白を作る。ペンギンオーを降ろすため、空中静止態勢に入るペンキャリーの
ジェット排気が、ビーチパラソルを次々に吹き飛ばす。家族連れが逃げ惑う。
そしてようやく、ペンギンオーは大地に降り立った。「くええええ」羽を広げ
て高く鳴くペンギンオーの言葉は誰にもわからないが、たぶん生きててよかっ
たと言っているのであろう。
「むむおおおおおお」牛くぐつは興奮した叫びを上げ、大地を前足で掻く。
「ペンちゃーん」駆け寄る香をトラクタービームが包み、香はペンギンオーの
コクピットに収まった。
「さあ行くわよっ。ペンちゃんっ」勇み立つ香だが、そのときには牛くぐつは
すでにペンギンオーめがけて突進を始めていた。「くええっ」逃げ腰になるペ
ンギンオー。「ペンちゃん、そっちへ逃げちゃだめっ。別府の町が踏み潰され
るわよっ」香は別府の町を背にしないように逃げようとしたが、そのことは海
を背にして立つことを意味した。
「はまったな、こってい鳥。おまえが泳げないことはわかっている。おとなし
くすれば、海に放り込むのは勘弁してやってもいいぞ」少名の声がどこからと
もなく響く。
「くええええー」ペンギンオーは、切羽詰った叫びを上げた。
「もーいや」うわごとのようにつぶやく原田を押しのけるように、奈美は操縦
席に座ると、「どこも壊れてない? 大丈夫? 怖かったでしょ?」とペンキャリー
に話し掛けながら操縦系の点検を開始した。オペレータたちはめいめいの位置
を占めて、ペンキャリーの移動司令室設備に息を吹き込んだ。
「別府湾湾口付近に高エネルギー反応。ドローン展開間に合いません。アイア
イオーに偵察衛星の連接を緊急要請」琴音が叫ぶように言った。アイアイオー
はスリーアイなど世界各国のいろもの研究機関が作っている組織で、偵察衛星
の共同運用や、象が踏んでも割れないバリアの共同開発などを行っている。
「連接、認証されました。映像出ます」善音が言った。
「マンボオーだ」田沼長官は思わず叫んだ。艦体の半分を水上に出して、カタパ
ルトらしきものを斜め上に向け、なにか巨大な円盤状のものを射出しようとし
ている。程なく、それは宙を飛んだ。
「飛来する物体はマッハ1.3、空気抵抗で急速に減速中です。推進機関は持ってい
ない模様。着水まで約75秒。落下地点は…」善音が判断に迷ってディスプレイか
ら顔を上げた。「水際です」
「爆発物かもしれん。衝撃に備えたほうがいい」歌川が緊迫した声で叫んだ。
「ちょっ、ちょっと、ペンちゃん。大丈夫なの」ペンギンオーが海の深みに入っ
ていくので、香は慌てた。「香ちゃん、マンボオーがそっちに何か撃ったの。
気をつけて」声の主は善音である。指揮をとるべき原田は、まだ「勇者じゃな
くっていい」とかつぶやきながら横になっている。「気をつけてって言ったっ
てぇ」香はぼやいた。
「そうか。あくまで抵抗するなら、踏み壊すのも致し方ない。やれっ、牛くぐ
つよ」少名の声が響く。「もおおおおおおっ」水中で動きの取れないペンギン
オーに、禍々しい角を誇示するように牛くぐつが挑みかかる。
「ペンギンオー、飛来する物体の推定落下地点で停止しました」琴音が緊迫し
た声で報告する。「落下とくぐつ獣と、どちらが早いのだ」田沼長官が問う。
「えーと、落下が2秒先です」菊音が答える。「南無三」歌川がつぶやく。
「拡大映像、出ます」落下する物体の映像が映し出されると、歌川はつぶやい
た。「円盤ではない。これは、リングだ」
「くえっ」ペンギンオーはいきなり、左右の羽を真上に伸ばした。そこへリン
グ状の物体がすっぽりと収まり、水面でもある腰のところで止まる。
ばしゃばしゃばしゃばしゃ。
ペンギンオーは驚くべきスピードで水を掻き、牛くぐつの攻撃をかわした。
「すごおい。ペンちゃん、これホバークラフトかなんかなの?」香ははしゃいだ
が、善音がそれに水を差した。「ただの浮き輪みたいよ」
ばしゃばしゃばしゃばしゃ。ペンギンオーはそんな会話にお構いなく、足の
水かきだけで器用に泳ぎ回る。「接近戦でなければ角だって怖くないわっ。ペ
ンちゃん、ペンギンシャウトよっ」香は叫んだ。
「おのれ、こしゃくな。牛くぐつよ。角を飛ばせ」「むおおお」牛くぐつが頭
をペンギンオーに向けてうつむく。噴煙を上げて、左右の角が発射されるのと、
ペンギンシャウトが浴びせられるのが、ほぼ同時であった。
「もおおおおおっ」最後の一声を残し、牛くぐつの黒い外装がぱらぱらとはが
れ落ち、やがて大爆発がそれに続いた。
「やったぁ」喜ぶ香に、菊音が声をかけた。「あのう、浮き輪、なんですけどぉ」
「え? 浮き輪? きゃあああっ」機外を見た香は、狙いの逸れた牛くぐつの角
が、浮き輪に突き刺さっているのに気がついた。
ぷしゅううううううぅっ。
「きゃー」「くえええええぇぇぇっ」深いところにいたペンギンオーは、ばしゃ
ばしゃとうろたえ騒いだ。
「ありがとう」温泉の中で呼びかけられたとき、香はそのことを予期していた。
はるかが大童と打ち合わせをするために「ちょっと10分」入浴が遅れると言った
からである。
「ひとつ、聞いていいですか」「どうぞ」初老の女性は優しく言った。
「あたし、超能力のことはよくわかりませんけど、予知能力者って、いるんで
すか」
女性は笑った。その笑いに込められているのは満足のようでもあり、それ以
外のものも加わっているようでもあった。あとでこのときの印象を反芻した香
は、あたしの年じゃわかんないのね、と結論した。「いい感性ね。そう。私は
予知能力があるの」
「悪いんですか。私たちの将来」香の声は真剣だった。田沼カツ子が身を隠し
た理由が、我が子たちの戦いを見たくないからであったとすれば、明るくない
結末を予感したことになる。
今度はカツ子の答えは遅く、慎重だった。「少しずつ、よくなっています」
「あたしの、いえ、あたしたちの力が、足りないんですか」香の声は小さかっ
た。「本当は、力は問題じゃないの。最後に問題になるのは、そのことじゃな
いの」カツ子は言葉を切った。
香は続きを待ったが、得られなかったので、言った。「言えないんですね。
影響を与えちゃうから」「ごめんなさい。すぐに見破られてしまうから」「見
破られるって、誰にです」カツ子は笑って、答えなかった。
「もう、ずっと帰ってこないんですか。はるかさんたちの所へ」香はおずおず
と聞いた。「そうでもないわ。きっと」それはとても先のことなのね、と香は
受け取った。「あたしにはよくわからないけど、大変な力を背負ってらっしゃ
るんですね」カツ子は苦笑した。「どんな予知能力もかなわないものが、ある
のよ」香はカツ子のほうを向いて、無言で問い掛けた。
「思いやりよ」カツ子は言って、いきなり香を抱きしめた。「ちょっ、ちょっ
と、あたしそういう好みは」香の頬に、冷たいものが伝った。それがカツ子の
目から出たものであることに、香は気づいた。
「子供たちを、お願いね」カツ子は言うと、体を離した。「あたしなんか、守っ
てもらってるばっかりで、迷惑もかけちゃって」「そうでもないわ。今もそう
だし、未来はもっと。じゃ」カツ子はまた、静かに湯煙の中に消えていった。
「おお、嬢ちゃん、おったのかい」聞きなれた声が香の背後から聞こえた。
「わたしらの温泉を守ってくれたんだねえ。定宿がちょっとばかり踏み潰され
てまったけど」「すみません」「謝らんでよろしおす」おばあちゃんたちは陽
気に香を囲んで、町や温泉の評判をし始めた。
今回の記録には、説明のつかない部分があるわね。影響は無視できるけど。
マンボオーは、船のほとんど通らない太平洋上でペンギンオーの報告を受け
取り、返事を送っていた。もうすぐ旅行は終わり、一行は大分空港を飛び立つ。
これ以上引き伸ばすのは、ここの人たちに迷惑でしょうね。でも、自衛の範
囲を超えるのは、あとで問題になるかもしれないわ。私たちだけの問題じゃな
いから。
ふふ。一生懸命なのね。何かできることを考えておきます。でも、強さは問
題じゃないのよ。最後にはね。
通信を終えたマンボオーは、盛んに泡を吐きながら、太平洋深く潜っていった。
今日は、旅行から帰って初めてのコンサートである。
あと数十分でコンサートが始まる。ホールはすでに開場して、聴衆が座席を
占め始めていた。楽屋も何かと慌しく、かすかな緊張が支配している。そこへ
あたふたと飛び込んできたのは、会場係のスタッフである。
「あの、ボックス席のお年寄りたちなんですが」別府で知り合いになった温泉
マニアの一団がコンサートに来てくれるという話は、香たちも聞いていた。
「ボックス席で幕の内弁当広げてるんですぅ。どうしましょう」香たちは絶句
した。「相撲のマス席と間違うとるな」イカさんがうめいた。
「一升瓶なんかも持ち込んでて、宴会始めてます」「一升瓶?」香が大声で叫ん
だ。「あたしも混ざるぅ」
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トワイライト・デイズ
いつか私も 素敵な
おばあちゃんになれるかな
お話をいっぱい持った
おばあちゃんになれるかな
ほんのすこしの間しか
一緒に時を過ごさない
そんな子供に伝える言葉
大切にためておこう
今日のことは いつか歴史に 私のことは 思い出に
人の心に住まわせてもらう その日に向けて歩こう
好きな人がいたのよって
素直にさらり言えるかな
馬鹿なこともしたのよって
笑いながら言えるかな
物語は いつか閉じて 私は声と姿になり
愛する人の心に生きる その日に今日はつながる
第10話「生命なき胎動」
「なんだか大変なことになっちゃったねー」町のあちらこちらに見覚えのある
一団が陣取って、それぞれ出し物をしつらえているのを見て、香はつぶやくよ
うに言った。
事の起こりは、香たちが伊豆ジャングル園ラフレシアまつりに呼ばれたこと
であった。ファンたちがついてくるのはいつものこととして、今回は界隈に店
やアトラクションが出展できたので、地元住民に混じっていくつかのグループ
が本当に展示に参加してしまったのである。当然、「来栖かおり」の看板や似
顔が町のあちこちに見られることになって、本人はどうも面映い。似ているの
も恥ずかしいし、似ていないのもそれはそれで恥ずかしい。
「わっ、我が人生に、悔いなああし」叫びざま悪の怪人が舞台から転げ落ちる
と、客席から見えない舞台の下でもう一度悲鳴が上がった。打ち合わせどおり
の場所にクッションがなかったか、でなければ落ち方が悪かったらしい。まば
らな拍手が沸いた。
道の向こうでは航空ファンたちが部品ジャンク市をやっていて、さっきから
「タイヤー、タイヤはいかがっすか」という呼び声が聞こえてくる。温泉マニ
アの老人たちまで飛び入り詩吟大会を主催しているらしいが、まだ見つからな
い。
「打ち合わせに遅れるでぇ」イカさんに促されて、香は名残惜しげに歩き出し
た。
温かみもないのに冷気からも見放され、魂の息吹から遮断された空間で、悪
源太は作戦を説明していた。
「これまでのくぐつ獣は、簡単な命令しか実行することが出来ませなんだ。
搭載している人工頭脳に、著しい限界があったゆえにござる」
「私のせいではないぞ、若棟梁殿」晴明がおだやかに釘を刺した。「我らの
高度AIチップは8つ。それを超えて量産することかなわぬのは、ご存知の通り」
「さればでござるよ、大師」悪源太はよどみなく言った。「まずはこれをお
聞きあれ」悪源太の目配せに応えて、オカリナのような土笛を取り出したの
が少名であったことに、幹部たちはたじろいだ。
土笛の音色は、無表情のようでもあり、激しい感情を込めているようでも
あった。感情が込められているとすれば、それは剥き出しで無統制な奔流の形
を取っているように思えた。
「我らには制御のためのコードがござる。それを知るのは、ただひとり、少名
様のみにて」悪源太の声は、どこか遠くに聞こえた。
「若棟梁様、まさか」巴の声には怒りは含まれていなかった。あるのは純粋
な嫌悪と、軽蔑。
「うっ、うおっ、うおおおぉっ」鎮西八郎が声を発しようとするが、発する
ことが出来ない。体も直立したままこわばって、手も、足も動かない。
「大師、お願いしたき儀がござる」「皆までおっしゃるな、若棟梁殿、いや
はやお働きなさることよ」壁に浮かんだ顔が微苦笑を言葉に含ませた。
道誉は状況を面白がるような表情をしたが、無言のままであった。小角と
金時は鋭い視線を鎮西八郎と悪源太にかわるがわる注いでいたが、やはり言
葉は発しなかった。それら全てを視界に収めながら、土笛を吹きつづける少
名の表情は、絵のように動きがなかった。
異変を最初に察知したのは、海岸線をパトロールしていたドローンバード
であった。しずくを滴らせて、海の中から次々に姿を現す木っ端武者は、海
水浴客を邪険になぎ払いながら、のしのしと砂浜へ進出した。急報はスリー
アイへと発せられた。
「また?」連絡を受けたとき、香はコンサートの手順を最終的に確認する、
主催者との打ち合わせの最中だった。
「ごめんなさいね、こういう立場だから」香が言うより先にタコさんが現地
スタッフに頭を下げたので、香は一瞬話の接ぎ穂を失ったが、「すみません。
あたし、戦わないと歌う場がないから」と続けながら、席を立った。
部屋を出ようとするとき、イカさんと鉢合わせする格好になった。イカさ
んは香のほうを見るような見ないような、中途半端な視線で、ぼそりと「な
に暗い顔してんねん」と言った。
「あたし、このままどんどん怖い顔になっちゃうのかな」香は下を向いて小
さな声で言った。
「人間いろんな面があるわな」言われた香は、顔を上げた。「戦うときは、
戦う顔。歌うときは、歌う顔。それでええやろ」
「こんな怖い顔、嫌い?」自分で口に出しておいて、その聞こえ方に気づいた
香は、あわてた。「いや、あの、別に、そういうことじゃなくて、その」
「全部、香ちゃんの顔やろ」香は、左肩が急に暖かくなったのが、イカさん
の手のせいだと気づいた。「遅れるで」
「行ってきます」少し笑って、どこか照れくさそうに、香は駆けて行った。
いつもの通り、ペンキャリーはそれほど遠くないところに控えていたから、
香が建物の外に出てくると、空にはもう小さくペンキャリーが見えていた。
「香ちゃん、市民公園にペンキャリーが降りるの。こっちよ」はるかが先導
するように走ろうとして、立ち止まった。「何?」はるかは木々の生い茂る山
の中腹を見据えた。
木々の一部が、まるで絵を描いた布のようにめくれあがり、細かくちぎれ
るように消えた。その下から出てきたのは、緋縅の鎧もいかめしい、武者く
ぐつ。きりきりきりと強弓を引いて、狙った先はペンキャリー。「いけない」
はるかが叫ぶより早く、武者くぐつは矢を飛ばした。
矢は見事に命中して、ペンキャリーの右の主翼は根元近くから吹き飛ばさ
れた。バランスを崩しくるくると落下するペンキャリー。「奈美さん」海岸
で木っ端武者を食い止めていた大童は、大地を扇子でひとあおぎして高く高
くジャンプした。落ちようとするところをまたひとあおぎ。もちろん目指す
ところは墜落地点。
残骸となったペンキャリーの下から、ペンギンオーが破片をはね散らかし
て這い出してくるさまを、大童は声もなく見つめていた。ブリッジの外側は
原形をとどめていないこともないが、これだけの衝撃を受けては内部の人間
が生きている望みはなかった。ちょうど操縦席の上らしいところに、大きな
丸い穴が空いている。「あ…あああ…」声が喉からどうしても出てこない。
「くえええぇ」大童の姿を認めたペンギンオーは、快活にすら聞こえる声を
上げた。大童のぼんやりした意識に、ペンギンオーが盛んに空を指し示して
いることが染み渡るまで数秒かかった。
振り向くと、空に丸いものが浮かんでいる。
パラシュート。
通信端末が鳴っていることに気づいた大童は、それを取り上げた。「ちょ
うど良いところにいるな、大童」田沼長官である。「奈美さんの状態を確認
してくれ。意識くらいは失っていると思うが」言う間に、パラシュートは意
外なほどの速度で落下して来る。大童はまた大きくジャンプして、空中で奈
美を抱きとめ、そのまま着地した。ふたり分の体重が足にかかり、大童は小
さくうめいた。
「いやあよかったよ。ああいう大型機で自動射出座席というのは普通ついて
おらんからな。タイミングよくブリッジの天井を割るのに苦労したよ」歌川
がひとりごとのように話していたが、もちろん大童は聞いていない。「奈美
さん、奈美さん」問いかけながら確かめると、呼吸も脈拍も問題ない。
「兄様」呼びかける声に振り向くと、はるか専用の2ドアオープンカー「夜
桜1号」が香を連れてきている。はるかはこの、黒に近い濃紺に桜花を散ら
したカラーリングの車体を嫌がって、どうしても必要のあるときしか乗ろう
としないのだが、演歌党の尼崎主任の趣味なのだから仕方がない。
「奈美さんを頼む」飛び出してゆく香と入れ替わりに、夜桜1号の助手席に
奈美を乗せようとした大童は、「大童さん」という奈美の声を聞いてぎくり
とした。寝言らしい。「また、行っちゃうのね」小さな寝言は続いた。
「行ってくる」大童はちょっとためらった後、短く言うと、くすくす笑うは
るかを残して、木っ端武者の掃討へと向かっていった。
ぺたん。ぺたん。武者くぐつの迎撃に向かうペンギンオーを待っていたの
は、広場に押し込められた町の人々と、それに向けて火矢をつがえた武者く
ぐつの姿であった。広場の周囲は木っ端武者たちで固められ、逃げ出すこと
も出来ない。大童はこっそり近寄ろうとして、別の気配を感じて立ち止まっ
た。小角がじっとこちらを見ている。その傍らには金時がいて、ずんずんと
前進してくる。
「聞け、人間ども。この者たちの命が惜しくば、マンボオーを呼べ」ビルの
上から呼ばわるのは、悪源太である。
「ペンちゃん、どうする。あの人たち、マンボウさんを狙ってるんでしょ」
香はペンギンオーに相談した。人質になっている人間たちには、自分のファ
ンたちもいる。そのことが気にかかってならなかったが、だからといってマ
ンボオーを差し出して済ませる気にもなれない。
香の前に、ペンギンオーは画像を示した。
白く大波を立て、相模湾に浮上してくるマンボオーを。
「殊勝なりマンボオー」悪源太は愉快げに叫んだ。「ではコントロールコー
ドを我等に明かせ」言うが早いか悪源太は「元興寺(がごじ)」と愛馬を呼
んだ。いななきとともに湧き出るごとく虚空から飛び出したのは、黒栗毛の
一頭の軍馬。悪源太が飛び乗ると、翼もない軍馬は一路相模湾上空を指して
空を駆けて行った。
マンボオーはぷかりぷかりと浮いていた。その波に洗われんばかりの横腹
にハッチが開いて、そこから小さな通信機のようなものが細い棒に支えられ
てせり出してきた。
マンボオーに降り立ち、それを手にした悪源太は、からからと哄笑した。
「我が事成れり」
身をすくませたペンギンオーの中で、そのやりとりを聞いていた香は、思
わず小声になってペンギンオーに話し掛けた。「ペンちゃん、これでいいの」
ペンギンオーは答えなかった。代わりに香が感じ取ったのは、強い緊張感で
あった。なにかを待ち受けているような。
「動くまいぞ、動くまいぞペンギンオー。汝もまた、武者くぐつより指呼の
間にあり」まるで様子を見ているように、悪源太が叫んだ。それがモニター
されてスリーアイやペンギンオーに届くことは織り込み済みである。
「さあ、マンボオーよ。手始めに、おまえのくぐつどもを我が手に委ねよ」
「我が手に?」鋭く問い返したのは、小角である。時を同じくして、相模湾
の海面に、人の顔が浮かび上がった。
「若棟梁、お言葉が過ぎましょう。ささ、コントローラーを少名さまに」
「まだわからぬのか。マンボオーを手にすること、この星を手にすることと
同然なり」悪源太は言い放った。
「裏返られたな、若棟梁」晴明の声は鋭くなった。
「おうさ。さあマンボオー、どうしたマンボオー、何の真似だ」悪源太の口
調は甲高く、速くなった。いつの間にか短いアームが三方から悪源太を囲ん
でいて、アームの先端にはビーム砲のようなものがついている。その先端か
ら、鈍く赤い熱線が悪源太を刺し貫いた。
「ぐわああぁぁぁぁ」悪源太の体からは一滴の血も流れない。その代わり、
結合が解かれるように、その構成要素が次々にはがれて落ちた。体のそここ
こで起きる小さな爆発がそれを加速する。「無念っっっ」その声は途中で、
音声ユニットの結合とともに霧消した。主を失った木っ端武者も、その場で
くずおれ、乾いた音を立ててその破片が点点と転がり、やがて砂のように形
を失っていく。
「馬鹿なまねをするまいぞ、ペンギンオー」一瞬生じた静寂をすぐ埋めたの
は、小角である。その目は油断なく、大童の挙動にも配られている。しかし、
やはり悪源太の抜けたことで、配置には重大な手抜かりが生じていたのであ
る。
すずやかな声が、そのことを暗鬼党の面々に気づかせた。
弘法の格にあらねど水乞いせん
御手洗(みたらし)あべし 疾(と)く石走(いわばし)れ
弘法:弘法大使空海。今昔物語に雨乞いを行い成功した逸話があるなど、
雨乞いとの関係が深い。
御手洗:神社仏閣の参拝者が手を清める場所。
あべし:あるべきだ。
石走る:岩の上を滝や急流が走ること。
「雨水司(うすいつかさど)る龍神にかしこみ勧化(かんげ=善果を生む行
為への協力を頼むこと)申す、悪しき炎(ほむら)を消し給え」はるかがい
つの間にか、武者くぐつとの間合いを詰めていた。はるかを中心に雲の渦が
湧き、それは瞬く間に水流となって武者くぐつに突き進んだ。「うおおっ」
火矢の炎を消され、たじろぐ武者くぐつを、ペンギンシャウトが見舞った。
武者くぐつの右腕が折り取られる。
「おのれ、ならばその水」小角が呪符を取り出し、一声発して投げ上げると、
布のような薄い壁がくるりと広場を包み、はるかが呼び込んだ水が人の背ほ
どにためられる。その壁を支える力は、やはり金時が出している。
「だめーっ」叫んで駆け寄ろうとするペンギンオーに、左手で脇差を抜いた
武者くぐつが迫ってくる。
壁を支える金時の目には、すでに水底に沈みかけた人々の姿が映っていた。
その中に、苦しげな少女の顔があった。10歳になるかならないかの、どこと
いって変わったところのない少女である。金時の記憶回路が、恐怖に見開か
れた菊音の顔を、その顔にだぶらせた。
金時の力が、急に抜けた。壁は高まる水圧に耐え切れず、その下部が破れ
て、奔流を八方に逃がした。その奔流に逆らいつつ、金時は少女を探した。
目の前を流され過ぎようとする少女を金時はすんでのところで捕まえ、抱き
とめ、そのまま流された。
金時は後ろ向きになって、奔流に身を任せていた。どうやら少女の命に別
状はないらしい。ほっとした金時の背中を、衝撃が見舞った。木っ端武者に
破壊された建物の、残骸の尖った部分に、金時の背中は貫かれていた。
金時の瞳は大きく開き、そして閉じた。だから、金時が少女に対して束の
間見せた微笑を見たものは、誰もいない。
「ペンちゃん、動いちゃだめよ。動くと誰か踏んじゃうよ」香は顔面を蒼白
にしながら、武者くぐつと向き合っていた。もう脇差を振るえば届くかもし
れない。足元にはずぶ濡れの市民たちが大勢いる。意識のない市民を意識の
ある市民が懸命に逃がそうとしている。
「下衆(げす)共を逃がそうとて、動かぬか」脇差を油断なく構える武者く
ぐつの声は厳しかったが、そこから殺気が消えつつあった。「身内を身内と
も思わぬ棟梁がおるかと思えば」武者くぐつは、優雅な所作で脇差を鞘に収
めると、言った。「娘、わしを討て」
「何ですって」「鎮西八郎ほどの者を相手に、よう戦うた。再び冥土に参る、
よき土産話が出来申した。我が首、取られい」
「八郎殿」小角が呼びかけた。「世話になった、大徳。ここは引いてくれぬ
か」「ええいっ」悔しげに小角は烏に変じ、飛び去った。
香が黙っている間に、広場からはあらかた人影が失せた。「ささ」誰もい
なくなった広場に、武者くぐつはあぐらをかいて座り込んだ。
「甘ったれんじゃないわよ」香は叫んだ。「周りを見なさいよ。みんな壊れ
ちゃったのよ。お祭りだったのよ。誰が片付けんのよこれ」
スリーアイ戦闘司令室では、田沼長官以下の面々が声もなく、事の成り行
きを見ていた。
「だからさあ…だからさあ。手伝いなさいよ」香は涙声になっていた。「も
ういいじゃない。十分死んだじゃない」
うつむいたままの武者くぐつの肩が、細かく震えた。
ペンギンオーのパワーが上がってきていることに、香が気づいたのは、そ
のときだった。「ペンちゃん、何するのよ。どうしたのペンちゃん」香は叫
んだが、ペンギンオーの反応はなかった。
「くえええええぇぇぇぇ」
ペンギンオーが独断で放ったペンギンシャウトは、武者くぐつを据え物切
りにしていた。
「なんで。なんでよペンちゃん…マンボウさんの命令なの。答えてペンちゃ
ん」香が問い詰めるが、ペンギンオーは心を閉ざして応じない。
「ふ、ふふふ」胸から白煙を上げる武者くぐつが力なく笑った。「情けと受
け取っておくぞマンボオー。願わくばその情け、人間どもにも残しておくこ
とだ」武者くぐつは前のめりに倒れ、そのまま砂のようにぱらぱらと崩れた。
「情けって…」香は小さな声で言った。
「香君、そういうわけで、これからどうやってスリーアイに帰るかだが」歌
川が言った。「海岸まで浮き輪を回航してある。別府湾から引き上げてスリー
アイで修理したものだ。それで何とか泳いで帰ってくれないか」「えーっ」
「そう言うな。あれだけの大きな浮き輪は、人類の技術では製造が難しいの
だ」「そっ、そういうことじゃ、なくてぇ」「ごめんなさいね、香さん」原
田が言った。「打ち上げは、帰ってきてからということで」「そういう問題
でもなくてぇ」
かくて香は、海路と陸路をたどり、夜通しかかってスリーアイにたどり着
く羽目になったのであった。
緊張が解けた戦闘司令室からは、スタッフたちがぞろぞろと退出し始めてい
た。
「何が腑に落ちんのだ、歌さん」廊下を歩く歌川に、尼崎が追いつくと、小
声で言った。「ペンキャリーが落ちるのを、なぜマンボオーは見逃したんだ」
歌川は尼崎のほうをちらと見ただけで、また前を見据えた。
「ペンギンオーは落下に耐えられるという目算があったんだろう」尼崎は言っ
た。「ペンキャリーはもう不要だとでも言うのか。マンボオーは鎧武者の居
所をつかんでいたはずだ。攻撃をなぜ止めなかった」
「人類の都合など、結局マンボオーは考えておらんということだろう」尼崎
の口調は陽気でさえあった。これが困難に対処する彼なりの姿勢なのである。
「それにしては、手が込みすぎている。何を隠しているのだマンボオーは」
歌川はつぶやいた。
もうすぐね。
ペンギンオーとの短い通信を終えたマンボオーは、そのことがひどく重要
であるかのように、口を開閉した。
んぱ。
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<ヒストリカル・ノート>
源義平(1141-1160):源頼朝の兄であり、源氏の嫡流。15歳のとき叔父を討ち
取り、悪源太の異名を取った。この時代、悪という漢字には「強い」という
語感があり、名乗りに使われても蔑称ではない。「元興寺」は狂言「清水」
のなかで鬼の異称として使われているが馬の名前としては架空。保元の乱で
は勝者側につくが、平治の乱で捕らえられ処刑された。
源為朝(1139-1170):源義平、頼朝の父の弟(八男)。強弓で知られる。九州
に勢力を張っていたため鎮西八郎と号した。保元の乱で敗者側につき伊豆大島
に流罪となる。平氏が政権を掌握した後、配所に討伐軍が迫り自殺したとされ
る。
坂田金時(生没年不詳):正式には公時と書く。相模国足柄山の出身と伝えら
れる。源頼光の四天王のひとり。幼名は金太郎。
なお「清水(鬼清水)」には流派などにより様々な異本と演出があり、元興
寺という表現が登場しないものも多い。
(第10話おまけ)
着ぐるみショー「超制服戦隊ユニフォーマーズ−愛はカタチよ−」脚本
<舞台装置>
ABCは舞台裏側に通じる観音扉(書き割りと同色)。
XYはクッションを敷いた穴。
B
A C
X Y
下手← ↓客席方向 →上手
(司会者、上手から登場)
司会者:みんなー。こーんにーちはー(マイクを客席に向ける)。元気いい
ねえ。大きいお友達がたくさんいるねえ。恥ずかしがらずに、こーんにーち
はー(マイクを客席に向ける)。
今日はねえ。超制服戦隊ユニフォーマーズのお話だよ。この世から制服を
消し去ろうとする悪の科学者ヤマンバーナたちとの激しい戦いが、今日もユ
ニフォーマーズを待っているんだ。みんなも応援してね。それじゃあお兄さ
んが「せーの、ユニフォーマーズ」って言ったら、みんなも元気よく、「ユ
ニフォーマーズ」って呼んでね。それじゃあ行くよ。せーの。
客席:ユニフォーマーズ!
(オープニングテーマ流れる。上手からブルー、レッド、オレンジ、ピンク
登場)
セーラーブルー(以下ブルー):あーあ、今日も補習で残されちゃった。こ
んなかっこうで街歩けないしー。
バニィレッド(以下レッド):いいじゃないセーラー服ぐらい。年末商戦の
ときなんか、あたしあの格好で街歩くのよ。
ブルー:(下を向いて、低い声を作って)ばにいちゃあん。
レッド:やめてよ、もう。
ファミリーオレンジ(以下オレンジ):ご注文の品は以上でお揃いですか。
ご注文の品は以上でお揃いですか。ご注文の品は以上でお揃いですか。
ロイヤルピンク(以下ピンク):ちょっと、いい加減にしてよ。
オレンジ:だって、あしたの研修会で3級が取れたら、時給が80円上がるのよ。
これってすごいことなのよ。3級になったらシフトリーダー試験が受けられる
のよ。
ピンク:(両手を広げて斜め上を向いて)ジョセフィーヌ。そなたの注文はそ
れで全てなのか。
オレンジ:(ひざまずいて手を組み合わせ)ああ、私のささやかな願いをあな
たがかなえてくださるというのなら、コーヒーは先に持ってきていただけるか
しら。
ブルー:あーっ。あれ、なに。
(下手を指差す。下手からリヤカーを引っ張る一団登場。一同駆け寄る)
アンタン:えー、毎度おなじみ、制服交換でございます。
ポンタン:古制服、新制服、ございましたら、ブランド洋品とお取替えいたし
ております。
レッド:へえ。制服なら何でもいいの。
ヤマンバーナ:はい、そうでございますよ。
ブルー:あーっ。このバッグ、「えるめす」って、ひらがなで書いてあるっ。
ヤマンバーナ:アンタン、おまえっ。
アンタン:すっ、すみませんっ。つづりがわからなかったんですっ。
ヤマンバーナ:だからあれほどカタカナで書けって言ったろう。
レッド:(左手を大きく振って腕時計に向かい)ユニフォーマーズ、非常集合
よ。ヤマンバーナが現れたわ。
(効果音)
メイドブラック(以下ブラック):おっ、遅くなって申し訳ございませんっ。
ピンク:大丈夫よ。ブラック姉さんが一番よ。
オレンジ:あっ、そのおじぎの角度、あとで教えてくれる。
レッド:あとは遅くなりそうね。
ヤマンバーナ:いでよ、ツギハギーノたち。(A、Cから一斉にツギハギーノ
登場)
レッド:行くわよ。(ユニフォーマーズBから退場)
ヤマンバーナ:ええいっ。追えっ追えっ。
アンタン:追えっ。
ヤマンバーナ:おまえもじゃあ。(アンタン、ポンタン、ツギハギーノたちの
後を追ってBに飛び込む)
(ユニフォーマーズ登場のアイキャッチ)
(ユニフォーマーズの5人、Bから次々に登場)
レッド:たったひとつの乙女の心、
ブルー:清楚に包むコスチューム、
オレンジ:汚す奴らは許さない。
ピンク:優しい心を仮面に隠し、
ブラック:そういうわけで、おしおきですっ。
ヤマンバーナ:そういうわけたあ、どういうわけだい。
レッド:途中がふたり分足りないのよ。
アンタン、ポンタン:逃がさんぞユニフォーマーズ。(A、Cから登場、ツギ
ハギーノたち続く。ユニフォーマーズBから退場)
(Aからブルーとオレンジ登場。ツギハギーノ甲、乙と腕を打ち合わせながら
それぞれDとEの前を進み、ブルーとオレンジの突きに合わせてツギハギーノ
甲、乙はDとEに落ちる。レッドがアンタンを追いかけてCから登場し、Bに
消える。ピンクがツギハギーノ丙をからかいながら舞台上手より登場し、ふた
りで下手に走り抜ける)
(さてここで問題です。ブラックはいま、どの扉の後ろにいるでしょう)
(上手よりブルーが出てくる。ポンタンが両手を振り回して追う。それにブラッ
クが追いすがるがポンタンにかわされる。大外から飛び出してきたのはレッド、
鼻の差でアンタン。さあ直線に入ったブルーだブルーだポンタン来たポンタン
来た、レッド伸びるレッド伸びる、アンタンが来たアンタンが来た、これは写
真判定か)
(みんなが走り抜けて誰もいなくなった舞台、上手よりホワイト登場)
ナースホワイト(以下ホワイト):まったく勘弁してよね。昨日今日はシフト
チェンジがきついんだから。
ブラック:(走って追い越そうとして気がついて立ち止まる)あっ、おはよう
ございますっ。(おじぎをしてまた走り出そうとするのをホワイトが止める)
ホワイト:ちょっとちょっと。誰とどう戦ってんのよ。状況説明してよ。
ヤマンバーナ:知らざあ聞いてちょうだいな。(アンタン、ポンタンを従えB
から現れる)世界の制服なくすため、道なき道をまっしぐら。ヤマンバーナと
(アンタン、ポンタン両脇に進み出る)その他2名。(アンタン、ポンタンずっ
こける)あんたの敵はあたしさ、パワーホワイト。
アンタン:ヤマンバーナ様、パワーホワイトって言ったら、戦艦シリーズです。
ヤマンバーナ:若い人にわからないギャグ飛ばすんじゃないよっ。
ポンタン:自分で言っといて。
ヤマンバーナ:さあ、今週のラブリーガイを呼びなっ。
アンタン:先生、お出ましなせえ。
リズミンバ:リズム怪人リズミンバ、いぇーい。(Cから登場)
(レッドはじめ、残り4人のユニフォーマーズ、上手より中央に走り出す)
リズミンバ:さあ、まずは情熱のサンバのリズムから、いぇーい。
(BGM流れる。6人のユニフォーマーズ、サンバを踊りだす)
レッド:(振り払うように)ヤマンバーナ、許さないわ。
リズミンバ:そこのひと、ノリが悪いよ、いぇーい。(指をさす)
レッド:ああっ。(思わず踊りに戻ってしまう)
リズミンバ:次はマンボだぁ。いぇーい。
(BGM変更。ユニフォーマーズ、マンボを踊る)
オレンジ:どうするの。すっかりペースに乗せられてるわ。
リズミンバ:夏はやっぱり音頭だねぃ。いぇーい。
(BGM変更。ユニフォーマーズ、東京音頭を踊る)
ヤマンバーナ:はっはっはっ。踊れ踊れ。
レッド:ダンスにはダンスよ。この状況を打ち破るには、創作ダンスしかない
わ。ブルー、お願いできる。
ブルー:いいけど、スーツチェンジしないと。
司会者:(舞台上手の袖から現れる)解説するよっ。セーラーブルーはスーツ
チェンジといって、状況によって体操服やスクール水着に変身する能力がある
んだ。(引っ込む)
ピンク:ここはあたしたちが引き受けたわ。早く行って。
(ブルー、Aから外へ。他のメンバー、リズミンバとの間に立ちふさがる。)
ヤマンバーナ:ええいっ。やっておしまいっ。
リズミンバ:ロビンちゃん光線!
(ユニフォーマーズをなめるようにスポット光。ユニフォーマーズ、くるくる
とつま先でステップを踏み始める)
リズミンパ:逃がさんぞセーラーブルー。(Aから外へ)
セーラーブルー:(姿は見せず音響で)スーツチェンジ。きゃーっ。
(大きく響く平手打ちの音)
リズミンバ:(Aからよろめき出て、ゆっくりBへ。同時に光線の効力が切れ、
ユニフォーマーズたちその場にくず折れる)
ヤマンバーナ:どうしたリズミンバ。
リズミンバ:わ、我が人生に、悔いなし。(弱弱しく両手を挙げYへ落ちる。
爆発音)
セーラーブルー:(体操服にスーツチェンジしている)もう信じらんなーい。
あの変態どこ。
ナースホワイト:もう倒しちゃったみたいよ。
セーラーブルー:えーっ。誰がよー。
ナースホワイト:あんた。
ヤマンバーナ:ええいユニフォーマーズ、その命、来週まで預けておくぞ。
(ヤマンバーナたちBから去る)
レッド:みんな、よくがんばったわ。
ブルー:あたしだけじゃなーい。
コマンドグリーン:(上手から登場)ごめーん。富良野で演習やっててさあ。
ヘリかっばらって都内某所の地図に載ってないヘリポートに下りて来たの。
レッド:もう終わっちゃったの。ごめんね。
グリーン:えーっ。またぁ。今度は北日本に出るようにヤマンバーナに言って
よー。
司会者:(唐突に登場)みんなー。楽しんでくれたかなー。物は投げないでねー。
ごみはくずかごにねー。
(全員手を振って幕)
===============================================================
お祝いをしよう
お祝いをしよう
お祝いをしよう
誕生日でもお正月でもない 今日はただの日だけど
僕は君に出会って 君は僕に出会って
こんなめでたいことはない
まだお年寄りじゃないけど ひとつひとつ少しずつ
いろんな人からもらったもので ぼくたちは生きてる
今日のピンチが本物なら あの日のラッキーも本物
まだまだいろんなものが降ってくる きっと
もらった笑顔 刻んだ言葉 ひとつひとつ数え上げて
お祝いをしよう 遅れたありがとうを世界に言おう
お祝いをしよう
お祝いをしよう
勝利の日でも名誉の日でもない 今日はただの日だけど
困りごとをしのいで 今日を明日につないで
こんな偉大なことはない
唇を噛むイエスがある 輝かしいノーがある
あのひとが誉めてくれたあの日 生きてるってめでたいね
わかってくれない 君は僕を 見えない 僕は君のこと
同じ時を生きながらかくれんぼ いつも
進めないことは 空回りじゃない ひとつひとつ学んでいる
お祝いをしよう 明るいありがとうを世界に言おう
Bird's Eye みんな歩いてる拍手ももらわずに
Stand-By 早起きして世界に花を飾ろう
Bull's Eye 毎日はボナンザは巡って来ないよ
Good Guy 当たり前をちょっとだけ守ってみよう
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