Nifty-SERVEのFSF1「創作の部屋」に1998年2月に発表したものです。
「男の艦隊」
時に、皇紀某年某月某日。天気晴朗にして波がどんぶらこどんぶらことのたってい
る南太平洋。空母エンタープライズを中心とするアメリカ機動部隊は、ニューギニア
を目指して疾走していた。
「司令、駆逐隊よりインコムです。ソナーに反応があるそうです」
「何だと」
護衛のため、エンタープライズのやや前方を走っていた戦艦メリーランドの目の前
に、黒い影、そして白い航跡が現れた。日本海軍の誇るイ号潜水艦の司令塔である。
その頂上からハッチをくぐって現れた、純白の一種軍装のひとりの軍人。
「きえええええええええええっ」
軍人は飛び上がった。白刃を抜き放ちざま、メリーランドの艦橋に近づいてくる。
60メートルは飛べないと、日本ではヒーロー扱いされない。その殺気を含んだ表情に、
艦長以下の艦橋要員は金縛りに遭ったように目を見開いて硬直した。
「ちぇすとおおおおおおおおおっ」
渾身の力を込めて振り下ろされる日本刀。艦橋正面の防弾ガラスがばりばりと音を
立てて砕け散る。艦橋の各種の機器から一斉に火花が散る。メリーランドの主砲がて
んでにひくひくと震え、やがてばったりとうなだれた。
くだんの軍人、艦橋のたもとに立ってそれを確認することすらせず、日本刀につい
た鉄屑を右へ、そして左へ払うと、ぱちりと鞘に納めた。ああ彼こそは帝国海軍最後
の希望、山口多聞。すたすたと100メートル余りを歩いて艦尾に立つと、エンターブ
ライズを見はるかすことひとわたり。
「エンタープライズ、飛竜のかたき、いやさ四空母のかたき、そこ動くな」
「フッフッフッフッフッ」
南太平洋に今響き渡る不敵な笑い。
「フッフッフッフッフッフッ」
「何やつだ」呼ばわる山口多聞。
「フッフッフッフッフッフッフッ」
エンタープライズの艦橋の影から、ゆっくりと歩み出た人物は、サングラスにコー
ンパイプ。
「貴様、マッカーサー陸軍大将だな」
「フッフッ。ニーミッツニハ、モウ任セテオケマセーン」
マッカーサーはふところから2機の模型飛行機を取り出した。マッカーサーがふう
っと息をを吹きかけると、面妖なことに飛行機はぐんぐん大きくなって、やがて本物
のサイズになる。陸軍の戦闘機のようである。その戦闘機を両手に1機ずつむんずと
握ったマッカーサーは、弓なりに胸を反らした。
「ダブルトマホゥゥクッ」
左右の腕に掴まれたトマホーク戦闘機が、今その手を離れる。
「ブウウメランッ」
ぶううん。プロペラ音を響かせて、いま2機のトマホーク戦闘機が山口多聞に襲い
かかる。
「はあっ」
煙突へ、艦橋へ、そしてマストへ。ひらりひらりと飛びながらトマホークをかわす
山口多聞。必殺の一撃をかわされたトマホークは離脱してマッカーサーの傍らに戻る。
「フッフッフッフッ。オ見事デース。ダガ次ハソウハイキマセーン。物量ハ必ズ勝チ
マース」
マッカーサーはさらに2機の模型を取り出すと、息を吹きかけた。都合4機になった
トマホークをマッカーサーは両腕で器用に掴む。
「おのれ卑怯だぞっ」
「ダブル・ダブルトマホウウクッ、ブウウメランッ」
ぶんぶんぶんぶううん。危うし山口多聞。
その時速く、かの時遅く、朗々と響く日本男児の名乗り声。
「連合艦隊ここにあり!」
「オオッ、イツノマニ接近シマシタカ」
白い航跡を作ってエンタープライズにひたひたと並走するのは、ああ日本海軍の至
宝、戦艦大和。
「山本さん」
「抜け駆けはいかんな山口君。どこにいようと、連合艦隊の心はひとつだぞ。ところ
でトマホークはどうなった」
あっ忘れていた。ぶんぶんぶんぶううん。山口多聞を襲う4機のトマホーク。
「てーっ」
大和の主砲から一斉に打ち出される徹甲弾。それらは必殺の弾道を描いてトマホー
クを捉えた。砕け散るトマホーク。主翼を折られて水面に叩き付けられるトマホーク。
徹甲弾を避けようとして水面に触れて沈むトマホーク。最後のトマホークは懸命に逃
げる。それを追う残り6発の徹甲弾。
「トマホークガ危ナイ。出撃スルノデス」マッカーサーの命により次々と発艦するワ
イルトキャット戦闘機。徹甲弾は必死に身をかわすが、ブローニング12.7ミリ機銃は
非情の射線を成して1発、また1発と徹甲弾を葬っていく。
「がんばれえ」手の空いた大和の水兵たちは、艦橋や中央構造物のスポンソン、ある
いは舷側に身を乗り出して声援を送る。「ヒューヒュー」アメリカ艦隊の乗員たちも
口笛で応援する。
急上昇しインメルマンターンでワイルドキャットを振り切ろうとする最後の徹甲弾。
トマホークも加わって三つ巴の空中戦となった。ああしかし、その機動が徹甲弾の墓
穴を掘ることになった。翼端失速を起こしふらふらと水面に落下する徹甲弾。アメリ
カ水兵たちは凱歌を上げた。
「そこまでだマッカーサー。おとなしくコーンパイプを捨てろ」
いつのまにか山口多聞はエンタープライズに飛び移り、ワイルドキャットに日本刀
をつきつけていた。
「フン、ワイルドキャットノオカワリナド、一銭五厘デスグ来マス」
「エンタープライズも道連れだぞ。いいのか」
見ればワイルドキャットは出動準備中で、甲板には魚雷や爆弾が所狭しと並んでい
る。
「ナ、ナンデ戦闘機ノ整備ニ、魚雷並ベマスカ」
「すみません将軍、整備員がマニュアルの違ったページを読んじまって」艦長が謝っ
た。
「仕方アリマセン・・・ヨークタウン、沈ミナサイ」
「将軍、この艦はエンタープライズですっ」
「エンタープライズ決シテ沈ミマセン。今日カラコノ船、ヨークタウンデス」
「キル・ジャップス!(弱気に過ぎるぞマッカーサー)」
おおっ。大和の向こうに現れたのは、空母ホーネット、サラトガを中心とするハル
ゼー提督の機動部隊。ああ、日本の電探がもう少し強力ならば、このような触接を許
すことはないのに。
「キル・ジャップス!(俺たちが来たからには、もう日本海軍の好きにはさせないぜ)」
「ホラ見ナサイ。エンタープライズ負ケマセン。アナタタチ、必勝ノ信念足リマセン」
「キル・ジャップス!(何をごちゃごちゃ言っている。早く大和を攻撃しろ)」
ああ日本の希望はついえるのだろうか。山本長官は艦隊決戦に敗れるのだろうか。
駆逐艦雪風の司令室では、艦長がはらはらと事の成り行きを見ていた。雪風は何時
の間にここに来たのか? 雪風は決戦場には必ずいなければならないと、ジュネーブ
協定で決まっているのである。
「艦長」呼ばれて振り返った艦長は、瞠目した。「あなたは・・・」
「酸素魚雷で、あのへんを射ちたまえ」くだんの人物が指差すのは、ハルゼー部隊の、
上空。
「しかし、それは・・・」口ごもる艦長を一喝が襲った。「貴様、酸素魚雷を疑うの
か!」「はっ、酸素魚雷で、あのへんを射ちます」
「何デスカ、アレハ」マッカーサーがようやく気づいた。
魚雷発射管がきりきりとギア音を立てて仰角を取る。「照準儀開け」「誤差修正、
左一点」「酸素圧力上昇、八割、十割、十二割」きびきびと発射準備が整う。
「てーっ」
ぷしゅううう。無色無臭の酸素の尾を引いて、扇形に飛んでゆく酸素魚雷。上空に
到達したそれは、一斉に炸裂した。
「オオッ」
「キル・ジャップス!(おおっ)」
それぞれの弾頭から白熱した金属球が飛び散る。その驟雨のような飛散物は、砲塔
を、甲板を、そして艦橋を貫通する。
「キル・ジャップス!(ええい、退却だ)」
「ア、アイ・シャル・リターン」
ほうほうの体で退散するアメリカ艦隊。山本長官は雪風の艦橋を覗き込むと、大声
で話し掛けた。「いらしたのですか、平賀さん」
「こんなこともあろうかと、酸素魚雷の弾頭に三式対空弾を使ってみたのだよ。名づ
けて拡散酸素魚雷だ」「おかげで助かりました」
「おおい」空から声がする。見ると一式陸攻が飛んでくるところである。
「降りるところはないぞ」上空から怒声が返ってきた。「大丈夫です。カタパルトが
片方空いているでしょう」
大和の艦尾カタパルトの片方にはたまたま飛行機が乗っていない。そこを目掛けて
一式陸攻は降下する。ばさっ、ばさっ。ちょこんと一式陸攻はカタパルトに止まると
主翼を折りたたんだ。さすがに狭そうである。
「どうしたんだ、小沢君」「やっかいなことになりました」一式陸攻から降りてきた
小沢提督は、渋面を作った。「チャーチル、スターリン、ルーズベルトが、カサブラ
ンカで会談するそうです」
「何だと」山口多聞が色をなした。「三大巨頭の揃い踏みか。合体されたら、手がつ
けられないぞ。そんな重大情報、どこから入ってきたんです」
「真珠湾に潜入した綾波が、知らせてきました」小沢提督の表情が暗い。
「で、綾波は、どうなったんだ」
「それが・・・」
「口では言えないようなことをされたんですかっ」山口多聞が詰め寄る。
「は、はあ・・・」
「放送できないようなことをされたのだなっ」山本長官が身を乗り出す。
「艦体を白っぽく塗り直してフレッチャー級のふりをしたのですが、見破られまして」
一同は瞑目した。許せ綾波。
「綾波は、また作ればいい」平賀が言った。「それより、カサブランカにはどういう
手を打つのだ」
「私が行きます」山口多聞が力強く言った。「しかし・・・」山本長官が逡巡する。
「行かせてください。必ず、ルーズベルトを」山口多聞は山本長官の目を見た。
「斬ります」
「わかった。だが無理は禁物だぞ」山本長官の決断に、平賀が言い添える。「今の大
和ではカサブランカまでは往復できない。私たちも、大和を改造したら、すぐに後を
追うからな」
「一式陸攻を使ってください」小沢が両手を差し出した。「頼みますよ、山口君」
山口多聞は堅い握手を交わして、一式陸攻の風防の後ろにひらりと飛び乗ると、
両腕を組んで右足を風防に乗せた。何時の間に巻いたのか、首には白いマフラー。
「やってくれ」
くえええええっ。一式陸攻は高く叫ぶと、マフラーをたなびかせる山口多聞を載
せて、天空へと力強くはばたいて行った。
−続きはありませんっ−
Back